「なんだ、お前は!」
「どうして人族がここにいる!」
「出ていけ!」
軽傷者たちが俺に敵意を向ける。
女性職員は既に去っているし、メルティーネは俺の後方にいる。
俺を守ってくれるものはない。
(まぁ……こうなるか)
俺は軽くため息をつく。
人魚族は、20歳以上の年代は人族への偏見や嫌悪感が強い。
それでも女性職員は、最低限の礼節を保ってくれていたが……。
あれは彼女自身の気質に加え、王族であるメルティーネの存在も大きかったのだろう。
メルティーネに後方へ控えてもらった状態で荒々しい戦士たちの前に出れば、こうなるのは必然である。
「俺はお手伝いさ。メルティーネ姫から直々に、この治療施設で手伝いをするよう仰せつかった」
「なんだと!?」
「ふざけるな! そんなわけないだろ!!」
「さっさと出ていけ!」
俺は正直に伝えた。
だが、戦士たちは俺たちを追い出そうとするのをやめなかった。
(さて……。どうしたものかな)
この治療施設に来たのは、あくまで患者の治療をするためだ。
俺を嫌う者たちを問答無用でボコってハイ終わり……というわけにはいかない。
どうしたものかと考えていると……。
「あなたたち。少し落ち着きなさって」
戦士たちをなだめる声があった。
もちろん、メルティーネだ。
できれば俺1人の力で解決したかったのだが、仕方ない。
「姫様……!?」
「まさか、本当に……?」
「こ、これはとんだご無礼を……」
人魚族の戦士たちはギョッとする。
彼らは慌ててその場にひれ伏そうとした。
「おやめになって。負傷者にそのような姿をさせるわけにはいきませんの」
「し、しかし……」
メルティーネの言葉に、人魚族の戦士たちは躊躇する。
どうにも、この里における王族のポジションってのが分からないな……。
子どもたちが気安く接したかと思えば、こうして戦士たちはかしこまる。
一体、どっちの姿がメルティーネの正しい姿なのだろうか……。
「大丈夫ですの。楽にしてください」
メルティーネが優しく言う。
その言葉に、戦士たちはようやく緊張を解いたようだった。
「ナイ様……。あとはお願いしても、よろしいですの?」
「ああ。任せておけ」
メルティーネが小声でささやくので、俺はうなずき返した。
今度こそ、俺が1人で頑張らないといけない。
今回の少目標は彼らの治療を行うことだが、最終目標は違う。
最終目標は、人魚族から人族への偏見を解き、保留中となっている俺への処分を完全になくしてもらうことだ。
そのためには、メルティーネの力を借りてばかりではいられない。
人魚族の戦士たちが落ち着くのを待って、俺は彼らに話しかけた。
「みんな、よく聞いてくれ。俺は治療魔法を使えるんだ。お前たちを癒やしたい。治療魔法を受け入れてもらえないか?」
「バカか!? 人族に助けてもらうくらいなら死んだ方がマシだ!」
「こんな傷、しばらく休んでいたら治る! 薄汚い人族に治療してもらうつもりはねぇ!!」
人魚族の戦士が叫ぶ。
先ほどと似たような反応だ。
(さて、どうしたものか……)
俺は頭をひねる。
ここで揉めている場合ではないし、どう説得したらいいか……。
「なぁ、頼むよ。俺が助かったのは、お前たち――勇敢なる海の戦士たちのおかげだと聞いている。偉大な盟友たちの傷を癒やしたいんだ。俺にその栄誉をいただけないか?」
「え、栄誉……? 俺たちを治療することそのものが……?」
俺が発した言葉に、戦士たちはピクリと反応する。
少し効果ありか……?
俺はさらに畳みかける。
「そうだ! 俺は誇り高き戦士たちを治療したいんだ。こんな名誉なことはない! 頼む、俺に勇敢なる盟友たちの傷を癒やさせてくれ!!」
俺は熱く語る。
ひたすらに彼らをヨイショしまくる。
お世辞ではあるが、完全な嘘というわけでもない。
チートを持っていない者たちがジャイアントクラーケンに挑むには、凄まじい勇気が必要だったことだろう。
「そ、そうは言われてもなぁ……」
「そもそも、お前は誰なんだよ? 盟友とか言われても分からねぇし……」
「姫様といっしょにいるってことは、人族からの使者か何かなのか? そんな話は聞いていないが……」
人魚族の戦士たちは動揺している。
あれ?
今さらそこなのか?
ジャイアントクラーケンに大ダメージを与えていた人族が里にいること自体は、すっかり噂になっているはずだが……。
仕方ない。
まずはそこから説明していくことにしよう。
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