俺は『海神の大洞窟』にて拘束されている。
魔道具『魔封じの枷』と『闘気封印の縄』が使われており、魔法や闘気が使いづらい状態だ。
人魚は人族に偏見や嫌悪感を持っているらしい。
しかも、俺がジャイアントクラーケンと単独で互角に戦っているところを目撃されていた。
そのため、過度に恐れられてしまっているようである。
「そういう事情があるなら、仕方ないさ。しかし、処分ってのはどんな内容なのだろう? 鞭打ちぐらいなら構わないが、死刑や長期拘留は勘弁してほしいところなのだが……」
俺はそう告げる。
チートの恩恵を受けた俺の体は、とても頑強だ。
多少の鞭打ちなら普通に耐えることができる。
執行者が女性なら、むしろご褒美と言っていいだろう。
だが、言うまでもなく死刑は受け入れられない。
長期拘留も厄介だ。
ミティやアイリスたちとの合流が遅れ、ヤマト連邦での任務遂行に支障が出る。
「その点は心配なさらないでくださいですの」
「おお! 何か軽い処分になるということ――」
「仮に重い処分になったら、私がナイ様を命をかけても逃しますの。どうか、ご安心を」
「……お、おう」
思ったよりも重い話だった。
メルティーネの予想では、結構な処分が下される可能性が高いのか?
彼女に命をかけてもらうわけにはいかない。
ここは、自力での脱出方法を考えておく必要がありそうだ。
(……ふむ。『魔封じの枷』も『闘気封印の縄』も、俺が全力を出せば突破できそうだな……)
俺は手足の感触を確かめる。
チートの恩恵を多大に受けている俺にとって、この程度の拘束はあまり意味がない。
王都の件でも、自力で『魔封じの枷』を破壊することができた実績がある。
とはいえ、無闇に騒動を起こしてメルティーネを悲しませるわけにはいかない。
なんだかんだで軽い処分になる可能性も残っているんだ。
ここはしばらく、大人しく捕まっておくことにしようか……。
(他に何か情報はないかな。……ん?)
俺はそこで、視界の隅で何かが光ったことに気づく。
これは……新たなミッションだ!
ミッション
10人以上の人魚族に加護(微)を付与せよ
報酬:スキルポイント20(本人のみ)
(ふむ……。10人以上に加護微を付与する必要があるのか……)
ここがハイブリッジ男爵領なら、楽勝だ。
というか、領民全体の数パーセント以上には既に加護(微)を付与できていると思う。
ハイブリッジ男爵領の中でも辺境寄りの小さな村にまでは手が回っていないが、逆にラーグやリンドウに限れば1割以上に対して加護(微)を付与している。
しかし、ここは人魚の里だ。
人族である俺への偏見や嫌悪感は強いらしい。
さすがに、このミッションの難易度は高いと言わざるを得ない。
(報酬は魅力的だ。ヤマト連邦の任務に役立つスキルを取得できるだろう。だが、その報酬は『本人のみ』か……)
ミッション報酬のスキルポイントには、大きく2パターンある。
通常の加護を付与済みの者たち全員にスキルポイントが入るミッションと、俺だけにスキルポイントが入るミッションだ。
今回は後者らしい。
少し残念だが、これはこれで1つの判断材料になる。
(『権限者』から見ても、今回は俺1人で解決するべきってことだろう。海底にある人魚の里は、俺以外にとっては危険な場所だしな……。とりあえず、ミティたちに『共鳴水晶』で連絡しておこう)
俺は魔力をちょこっと開放し、懐の水晶に魔力を込めた。
モールス信号的な感じで、あらかじめメッセージを決めておいてよかった。
(『自分は無事。救助不要。後で合流する』……っと)
これで、彼女たちが俺の救助のために無茶をすることはなくなっただろう。
あとは、自力でミッションを達成しつつ人魚の里から脱出すればいい。
「メルティーネ、しばらく厄介になる。よろしくな」
「はいですの! 『魔封じの枷』と『闘気封印の縄』は外せませんが、それ以外に不自由はされないようにいたしますの!!」
俺が声をかけると、メルティーネが嬉しそうに言った。
あわよくば、彼女との交流も深めていきたいな……。
俺はそんなことを考えつつ、海神の大洞窟にて静かに時間が過ぎるのを待つのだった。
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