「あ、あんたは……」
「おい、紅葉! さっきはよくもやってくれたな!!」
少年が怒鳴る。
なるほど、村長の息子というのは彼のことか?
彼は俺を無視して少女に詰め寄る。
「おら、村に帰るぞ! 今度こそ、たっぷりと可愛がってやるぜ!!」
「い、嫌だ……。村には帰りたくない……」
少年は強引に連れていこうとしたが、少女は抵抗する。
俺は思わず刀の柄を握った。
それを見た少年が叫ぶ。
「おいてめぇ!! 何をするつもりだ!?」
「……場合によっては戦うつもりだが?」
俺は少年を睨みつける。
少年は一瞬怯んだ様子を見せたが、すぐに怒鳴り返してきた。
「これは村の問題だ! どこの侍か知らねぇが、部外者が口出しするんじゃねぇよ!!」
「ふむ……。確かに俺は部外者だ」
ヤマト連邦内の身分制度がよく分からないな……。
刀を持っている侍であっても、村人同士の問題に首を突っ込むのはマズイのか?
「しかし、彼女は嫌がっているようだ。無理やり連れて行こうとするのは、間違ってるんじゃないか?」
俺は言う。
すると、少年の表情がさらに険しくなった。
彼は敵対的な視線を俺に向ける。
だが、それと同時に彼の腹から大きな音が鳴った。
「あ……」
少年は腹を押さえて、顔を赤くする。
どうやら、彼は腹を空かしているらしい。
「……今は、どの村も食べものがない。そんな中でも、紅葉には食料を分け与えていたんだ」
「ほう。なかなか親切じゃないか」
カゲロウやイノリがいた『佐京藩』は、食料がたくさんあった。
一方で、このあたりの『桜花藩』はそうでもないらしい。
天下の台所と呼ばれるほど物流が発達しているという話だったが……。
何か問題でも発生しているのだろうか?
「もちろん、ただの親切心なんかじゃねぇよ。こいつには……体を差し出してもらうんだよ! 村長の息子である、この俺になぁ!!」
「なるほど……」
俺は納得した。
思春期の男らしい考えだ。
つまり、彼は少女を性的な意味で襲おうとしていたのだろう。
まぁ、気持ちは分からなくもない。
俺だって、童貞歴はかなり長かったからな。
正攻法以外で女体を手に入れられるチャンスがあれば、飛びつく気持ちは分かる。
「だから、てめぇは邪魔なんだよ! とっとと消えな!!」
「ふむ……」
俺は考える。
今、俺はこの少女を救いたい。
だが、俺が余計なことをして状況を悪化させてしまう可能性もあるだろう。
さて……どうしたものか……。
「何を悩んでやがる! この森には、危険な魔物だって出るんだぜ? 紅葉にとっても、村に戻るのが正解だ。てめぇは、さっさと消えな!!」
「うぅ……」
少女が俺を見る。
その目には、涙が浮かんでいた。
そんな少女の目を見て、俺は――
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