「やはり、目下の目標は近麗地方の平定だよな。現状は……」
俺は手元の地図に視線を落とした。
そこにはこう書かれている。
北北
北北北北
北北北北
北北
北北
北北北
北北北
中中北北
中中中漢漢
九九九 重重近近中中中漢漢
九九九 重重近近近中中漢漢
九九 桜那中中
九九 四四 湧深
九九 四四
桜……桜花藩(おうかはん)
湧……湧火山藩(わかやまはん)
那……那由他藩(なゆたはん)
深……深詠藩(みえはん)
「翡翠湖には曰く付きの迷宮がある。死牙藩の白夜湖には特殊な妖気が漂っており、強力な妖獣が集う。天上人が住むとされる虚空島は、そもそもの情報が少ない。だからこそ深詠藩の征服で一区切りとして、作戦を練っている最中なわけだが……」
俺は、半ば独り言のように呟きながら、地図に指を滑らせた。
色褪せた紙の上に描かれた三つの異境は、それぞれが異なる脅威と謎を孕んでいる。
翡翠湖の迷宮は、過去に何人もの探検者を呑み込んだ曰く付きの地。
死牙藩の白夜湖は、濃霧の中に妖気が渦巻き、武者修行に訪れた猛者すらも逃げ出すという。
そして、虚空島――その存在すら伝説めいており、天上人という言葉だけが宙に浮いていた。
だからこそ、まずは情報を集める。
それを元に、次の一手を描く。
そういう段階なのだ。
俺が思考を巡らせていた矢先、ふと、天守閣の入口から微かな気配が漂った。
風の動きにしては不自然。
誰かが近づいてきたのだ。
「高志様、ご報告があります」
くぐもった声。
だが、俺にはすぐにわかった。
「おお、紅葉か。それに、他のみんなもいるようだな」
俺はゆったりと立ち上がって出迎える。
7人の配下が、足音が重ならぬように整然と入ってきた。
先頭に立っているのは、薄い紅の髪を風に揺らす少女――紅葉。
彼女の姿は一際目を引いた。
山間部の寒村に生まれながら、今や桜花藩を代表する植物妖術使いとして名を馳せつつある。
それだけでなく、内政においてもその存在感を増し続けている。
俺のチートスキルの影響が大きいとはいえ、彼女自身の才覚や努力も大きい。
頼りになる存在だ。
そんな紅葉が一行の先頭に立つのは、単なる偶然ではない。
俺の配下の代表格として、他の配下から信頼され、期待されている証だ。
彼女の後ろには、流華と桔梗。
さらに無月、幽蓮、黒羽、水無月と続いている。
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