「余は……これからどうするべきだと思う?」
「何を、と言われますと?」
「このまま藩主を続けるか、それとも……」
景春は言い淀む。
そんな彼を樹影は静かに諭す。
「世は戦国……。桜花に伝わる『血統妖術』を使える景春様でないと、桜花藩をまとめることはできません。景春様が藩主を辞めるということは、桜花藩の終わりを意味するでしょう」
「……そうか。そうだな」
樹影の言葉に、景春は頷く。
彼は責任感が強い。
藩主を辞めるにしても、ケジメはつけなければならないと考えているのだろう。
「理屈は分からぬが、今までの余は思考力や判断力が鈍化していたようだ」
「私も同じにございます。他藩の介入か……あるいは天災に近い何かが起きたのかもしれません」
景春は頷く。
闇の瘴気。
卓越した闇魔法の使い手ならば、意図的に瘴気を発生させたり操ったりすることもできる。
だが、自然発生による偶発的な瘴気には、対処のしようがない。
「つい最近も、報告を受けていた謎の流浪人がいたな。確か、名前は……」
「高志……。高志と申す者です」
「そうか、そうだったな。何やら、あちこちを嗅ぎ回っていると聞いていた。武神流とも関わりがあるとか……」
景春は高志のことを思い出す。
桜花藩は交易によって栄えた街だ。
商人が行き来することに不自然さはない。
商人以外の平民も、出稼ぎでやってくることだってある。
だが、流浪の侍というのはやや珍しい。
そんな者が、怪しい動きをしているのならば……
「景春様は、その高志が何かしたと?」
「断定はできん。だが、重要参考人ではある。敵対者なのか、協力者なのか、あるいは無関係なただの流浪人なのか……。余は、高志に会ってみるべきだと考えている」
景春が告げる。
その言葉に、樹影は少し考えるそぶりを見せた。
「お考えは立派ですが、危険すぎます。思えば、金剛や雷轟の言動も少し妙でした。高志とやらが精神系の妖術で何かしたのかもしれません」
「ふむ……」
「いくら『血統妖術』があるとはいえ、怪しい者を景春様に近づけるわけには……」
「ならば、奴に近しい者から事情を聞くのはどうだ? もちろん、害をなそうというつもりはない。あくまで穏便に、重要参考人として話を聞くだけだ」
「近しい者……。確か、3人の少女が高志の側にいたと報告を受けております。その者たちから、事情を聞くということでしょうか?」
「うむ」
樹影の言葉に、景春は頷き立ち上がる。
そして……
「樹影よ、貴様に命じる! 巨魁、蒼天、夜叉丸と共に行動し、3人娘をここへ連れて来い!! くれぐれも、高志とやらには気づかれぬようにな」
「……かしこまりました」
樹影は恭しく礼をする。
こうして、桜花七侍に勅令が下ったのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!