「ではさっそく、第1試合を始めます! Dランク冒険者のタカシ選手対、ファウス道場のミッシェル選手!」
第1試合でいきなり出番だ。
「タカシ様。勝利をお祈りしています!」
「タカシ、がんばってね!」
ミティとアイリスから激励の言葉をもらう。
彼女たちにいいところを見せないとな。
控室から出て、武闘のステージに上がる。
俺の相手はミッシェルだ。
焼肉屋での因縁がある。
年齢は20代前半くらい。
ギルバート、ジルガ、ドレッドあたりと比べると体格はそれほど大きくない。
ただ、このガルハード杯に出場するくらいだから、実力は確かだ。
「両者構えて、……始め!」
「ふっ。約束通り、ボコボコにしてやろう」
「そう簡単にやられるつもりはない!」
相手は格上なので、待っていても仕方がない。
先手必勝で動きだす。
「はっ! せいっ!」
ガンガン攻撃を繰り出していく。
が、うまく防がれてしまう。
「ほう。悪くない動きだ」
相手のミッシェルがそう言った。
褒められて悪い気分はしない。
ただ、今は試合中だ。
「そりゃどうも!」
さらに攻める。
「だが、付け焼き刃だな。取るに足らん」
彼はそう言って、蹴りを繰り出してきた。
こちらの攻撃時の反動の隙を突いた攻撃だ。
これは回避できない。
「うっ」
モロにくらってしまった。
ステージの端に吹っ飛ばされる。
「さて、ボコボコにしてやるか。降参するなら今のうちだぞ?」
諦めるのはさすがにまだ早い。
とはいえ、技術的にはやはり歯が立ちそうにない。
ここは闘気を惜しみなく使って短期決戦を挑むか。
「はああぁっ!」
闘気を開放する。
「な、何っ!? なんだこの闘気量はっ!? てめえ、素人というのは嘘だったか!」
ステータス操作の恩恵により、俺の闘気術はレベル3に達している。
素人レベルではない。
なめてもらっては困る。
「手加減はしてやれん。残念だがな」
「う……あ……」
ミッシェルはどうようして棒立ちだ。
「見えるか? 本物の闘気が!」
転移者チートをなめるなよ!
とはさすがに口には出さない。
「剛拳流奥義! ビッグ……」
闘気を腕に集中させる。
ミッシェルに近づきつつ、拳を繰り出す。
「バン!!!」
ミッシェルに拳がヒットする。
「ぐっ。ぐああぁっ!」
ミッシェルは何とか棒立ち状態から復帰し、闘気で体を覆って防御の姿勢をとる。
しかし、俺の攻撃を耐えきれない。
彼は弾き飛ばされ、ステージと観客席を隔てる壁に激突する。
「ふん。この技を受けて立った者はいない。勝負ありだ」
俺はバシッと決めゼリフを言う。
まあこの技を試合で使ったのは、今が初めてだけどな。
「ミッシェル選手場外! カウントを取ります! 1……2……3……」
10カウントされれば、場外で俺の勝ちだ。
立つなよ。
絶対に立つなよ。
「ぐ……。はあ、はあ……」
なんと、ミッシェルが立ち上がった。
ステージに戻ってくる。
「ミッシェル選手、試合続行です!」
マジかよ。
「なるほど。かなりの闘気だ。取るに足らんと言ったことは訂正しよう。俺も、2回戦以降に闘気を温存している場合ではなさそうだ」
ミッシェルは闘気を温存していたのか。
まだあれが全力ではなかったと。
「それはどうも。しかし、そのダメージで試合を続けるつもりですか?」
「もちろんだ。勝負は最後までわからない! はっ」
ミッシェルの闘気量が上がった。
「いいでしょう。いきますよ! はあっ」
時間が経てば、少しずつ回復されてしまうだろう。
痛みなどが引かない内に、猛攻をかけて勝負を決めてしまおう。
ラッシュを仕掛ける。
パンチ。
パンチ。
キック。
さらにパンチだ!
「これで終わりだあ!」
止めに闘気を多めに練った一撃。
これで決める!
「……お前は、攻撃がヒットする瞬間にまばたきする癖がある。……ここだ!」
ミッシェルからカウンターが繰り出される。
「がはっ」
モロにくらった。
これは……。
厳しい。
痛い。
立てない。
「そこまで! 勝者ミッシェル選手!」
負けてしまったか。
くそう。
試合が終了したので、自身にキュアをかける。
少し痛みが引いた。
何とか立ち上がれそうだ。
ミッシェルがこちらに来て、手を差し出してくる。
「ふっ。なかなか悪くなかったぞ」
「ああ、ありがとう」
ミッシェルの手を取り、立ち上がる。
「まばたきの癖は、直しておくことだ。冒険者としてもあまりよくない癖だと思うぞ。まあ、一朝一夕で直せるものでもないだろうがな」
「がんばって直すよ」
アドバイスまでもらってしまった。
負けたのは悔しいが、有意義な経験だったのは確かだ。
ミッシェルに対して、技術や精神面で完全に負けていた。
闘気術は通用したが。
闘気術レベル3は強い。
闘気術による身体能力の向上のみで、かなり闘える。
ただ、今回は相手が悪かった。
技術で彼のほうが格段に優れているのに加えて、闘気術もレベル2~3はありそうだ。
ギルバートやジルガあたりも、闘気術のレベルでいえば3ぐらいだと思う。
さらに、一度大きな劣勢になっても諦めない精神力。
俺のラッシュにもひるまず、冷静にスキを見抜く眼力。
ミッシェルは、対人の戦闘力だけでいえば、冒険者ランクCはありそうだ。
俺はすごすごと控え室に戻る。
ミティとアイリスが出迎えてくれた。
いいところを見せられなかったな。
「お疲れ様です。タカシ様」
「いい勝負だったよ。タカシ」
「ありがとう。でも、負けちゃったよ。さすがにかなりレベルが高いね」
俺は決して弱くはないはず。
相手が強すぎただけだ。
しかしそのミッシェルも、ガルハード杯出場者の中では中堅程度。
世界は広い。
「そうですね。私は大丈夫でしょうか……」
「まあ勉強のつもりで気楽にやりなよ。無理してケガしないようにね」
やる気に水を差すかのような投げやりな言葉かもしれないが、本心だ。
ミッション報酬が手に入った時点で目的はほぼ達成してるしな。
「わかりました!」
ミティはそう元気よく返事してくれた。
変に気負いせずに頑張ってくれそうだ。
俺は負けたので、もう試合の出番はない。
控室からも観戦はできる。
敗退した後も、出場選手は控室を利用していいらしい。
そこで残りの試合を観戦することにする。
ミティとアイリスの活躍に期待しよう。
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