「きゃーっ! ソーマ様、カッコいい!」
「やはり貴族になられた方は違うな……」
「レティシア中隊長が軽くあしらわれている……。凄まじい実力だ」
シュタインとレティシアの稽古を見学している他の騎士たちが騒ぐ。
彼は王都の騎士団にも一目置かれているようだな。
一方の俺は王都ではまだ無名に近いようで、ほとんど注目されていない。
まあいいさ。
騎士見習いのナオミに稽古をつけてあげて、仲良くなろう。
彼女は彼女で俺のことをシュタインの部下と勘違いしているようだが。
「さあ、どこからでもかかってきなさい」
「はい!!」
騎士見習いのナオミは腰に下げた長剣を引き抜く。
そして、油断なく構えた。
そんな俺たちの様子に一部の騎士たちが気づく。
「お? 見ろよ、あれ」
「見習いのナオミが誰かに稽古をつけてもらうみたいだな」
「相手は……誰でしょう? どこかで見たような気がしますが……」
「私は知りませんね。おそらく、ソーマ騎士爵の配下の方ではないでしょうか」
「確かに。最初からソーマ騎士爵といっしょにいましたものね」
ざわつく騎士たち。
彼らにも、俺はシュタインの部下だと誤解されてしまっている。
一部の者は俺の顔をどこかで見たことがあるらしく、首を捻っている。
おそらく、冒険者としての特別表彰者の顔写真を見たことがあるのだろう。
騎士と冒険者は、普段は直接的に絡む機会が少ない。
だが、魔物の退治などで行動を共にすることはある。
特別表彰者の顔ぐらいは一通り確認している者がいてもおかしくはない。
「いきます! はぁあっ!!」
ナオミが鋭い踏み込みで一気に距離を詰めてくる。
悪くはないスピードだが、シュタインやレティシアに比べると数段落ちるな。
まだ見習いだけあって、実力は発展途上か。
俺は彼女の攻撃をヒラリと避ける。
「ほら、もっと速く動いてみろ」
「はい!!」
ナオミの動きが加速した。
「お、いいぞ。その調子」
「はぁああっ!!」
「うん。筋がいいね」
「ありがとうございます!」
そんな感じで俺はナオミと打ち合っていく。
周囲の騎士たちが唖然としていた。
「おい……。あの男、何者だ?」
「見習いのナオミ相手とはいえ、あれほど余裕をもって対応できるとは……」
「ソーマ騎士爵はずいぶんと優秀な配下をお持ちなのだな」
「いや。やはりあの顔には見覚えが……」
ざわめきが大きくなっていく。
俺の正体を勘づきかけている者もいるようだな。
「くぅ!? 当たらない!?」
「はは。まだまだだな」
「くそぉ!! だったら、これならどうですっ!!」
ナオミが大振りの斬撃を放つ。
「おっ」
それは俺の首元を狙ったものだった。
しかし、俺にはあっさり避けられてしまう。
「う、嘘……?」
「惜しかったな。スピードは悪くないが、剣筋や素直すぎる」
「そんな……。アタシの攻撃なんて、簡単に見切られていたってことですか?」
「そういうことだ」
「くう……。でも、負けていられない!」
「おう、頑張れ」
それからもナオミは果敢に攻め続ける。
「はぁああああああ!!!」
「ふむ……。パワーもなかなかだな」
「まだまだこれからですよ!!」
「いや、そろそろ終わりにしておこう」
「え?」
俺はナオミの背後に一瞬で回り込むと、彼女の首に軽く一撃を入れた。
「かはっ……!」
「はい。これで稽古は終了だ」
「ど、どうして……? いつの間に後ろに……?」
「闘気を開放して身体能力を上げただけだ。ナオミちゃんも少しは使えるんだろう?」
「は、はい。少しは」
「なら、今後の鍛錬次第でこれぐらいはできるようになるさ」
「わ、わかりました。精進します!」
ナオミが頭を下げる。
パチパチパチ。
横から拍手の音が聞こえた。
「我が盟友よ。貴様も騎士に稽古をつけていたのか」
シュタインだ。
「ああ。頼まれてしまったからな。まだまだ荒削りだけど、将来性を感じさせる子だよ」
「なるほど。確かに、良い目をしている。我の部下に欲しいぐらいだ」
「やめとけ。どさくさに紛れて手を出すつもりだろう」
「……そ、そんなことはないさ」
「本当かねぇ……」
俺は半眼になる。
この男の女好きはかなりのものだ。
油断はできない。
「ソーマ騎士爵様。ご指導ありがとうございました。して、こちらの方はいったい? 先ほど”盟友”と言われていたようですが……」
中隊長レティシアが俺たちの会話に口を挟む。
「ああ、彼は……」
シュタインはそこまで言いかけて、途中で言葉を止めた。
そして、何かを思いついたのかニヤリと笑った。
「その前に、レティシア殿も稽古をつけてもらえばいいだろう。一度手合わせをすれば、彼の人となりも分かるというもの」
「中隊長の私が、ですか? 騎士爵であるソーマ様はともかく、私がそこらの者から学ぶことなどありませんが」
「いやいや。そんなことはない。ぜひ、参考にするとよいだろう」
「はぁ……。シュタイン騎士爵がそれほどまでに仰るのであれば……」
レティシアが疑わしげな視線を俺に向ける。
「では、稽古をお願いします」
「ああ、いいだろう」
俺は鷹揚にうなずいた。
さあ、見習いのナオミに続いて、中隊長レティシアの実力も体感させてもらうことにするか。
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