ザザッ……。
「……あれ……?」
俺は首を傾げる。
いま、一瞬景色が変わったような……?
「高志殿、大丈夫でござるか?」
俺の前に立っていたのは、侍風の人物。
特筆すべきは、金髪碧眼でエルフっぽい耳を持っていることだ。
俺は彼女に見覚えがあった。
「蓮華……?」
「呆けておられるようでござるな。少し休憩を挟まれては?」
蓮華が心配そうな顔をする。
俺は……ええっと……。
……そうだ。
俺たちは、剣の稽古をしていたんだ。
「いや、大丈夫だ。続きを頼む」
「そうでござるか? では、続けようぞ」
蓮華が剣を構える。
俺もそれに応じて、剣を構えた。
そして、俺たちは再び剣を交えていく。
蓮華の剣術は元より高いレベルにあったが、俺の『ステータス操作』によりさらなる高みへと至っている。
もちろん、俺も負けていられない。
こうして剣の鍛錬をしつつ、剣術系のスキルを優先して伸ばしている。
刀剣類を使った近接戦闘において、俺や蓮華の右に出るものはほとんどいないだろう。
強いて言えば、剣の聖地ソラトリアにいるという剣聖や、ヤマト連邦の将軍くらいか。
……いや、それ以外にも身近に一人、とんでもない人物がいたな。
「蓮華」
「どうしたでござるか?」
「***がウォーミングアップから帰ってくる頃……で……」
俺は違和感を覚える。
愛する子どもの名前を呼んだはずなのに、なぜかうまくできないのだ。
「高志殿? どうされた?」
蓮華が心配そうに見つめてくる。
俺は首を振った。
「……いや、なんでもない。とにかく、***の稽古もつけてやらなければと思ってな」
「そうでござるな。とんでもない才能を持っているでござるが、拙者たちでしっかり導いてやらねば」
「ああ。……それじゃ、準備をしておこう」
俺たち二人は、***を迎えるための準備に取り掛かった。
程なくして、***が帰ってくる。
ザザッ……。
視界が乱れる。
先ほどから、どうにもおかしい。
まるで『この記憶を見せるわけにはいかない』と上位存在が介入しているかのように、視界が乱れるのだ。
せっかく愛する子どもが目の前にいるというのに、俺はその顔すら認識できない。
「高志殿……?」
「……討ち入りを前に、緊張しているのかもしれん。なぁに、大丈夫さ。心配は要らない」
俺は心配させまいと、無理やり笑顔を作った。
そう、今は大切な時期なのだ。
俺たち一家は、近いうちにヤマト連邦への旅路につく。
目的は復讐だ。
俺と蓮華は、サザリアナ王国で出会った。
いろいろあったが、俺たちは恋仲になる。
そして俺が不用意に蓮華を妊娠させてしまい、彼女はサザリアナ王国からしばらく動けなくなった。
そのタイミングで、ヤマト連邦で大事件が立て続けに起こってしまったのである。
その事件には蓮華の実家も巻き込まれており、彼女はひどく傷ついた。
彼女は復讐を口にするようになる。
だが、妊娠中の蓮華に無理はさせられないし、出産直後も同様だ。
祖国のことは忘れて、愛する***と共に新しい人生を歩もうと俺は提案した。
しかし、彼女はそれを良しとしない。
一人でヤマト連邦へ復讐に行くと言い出したのだ。
さすがに危険だと宥めたが、彼女は一人で行くと聞かなかった。
俺は折れ、彼女の復讐を手伝うことにした。
せめてもの妥協案として、***がある程度成長するまで待つことを提案し、彼女もそれを受け入れた。
幸か不幸か、***にはとんでもない剣の才能があった。
そして、母親の復讐を手伝うと言い出す。
無垢な子どもに復讐を手伝ってもらうのは気が引けたが、事情が事情だ。
俺も蓮華も覚悟を決めた。
そして今、こうして三人で剣術の仕上げをしているわけだ……。
ザザッ……。
ザザザザッ……。
視界の乱れが激しくなる。
「高志殿……? 本当に大丈夫でござるか?」
「……ああ、大丈夫だ。復讐を完遂して、3人で幸せになるんだ。そうだろう?」
「そうでござるな。拙者の我儘に巻き込んで申し訳ないでござるが……。侍の誇りにかけて、これだけは譲れぬ故……」
「問題ない。俺だって東雲家の端くれなんだ。東雲高志として、東雲家の汚名は必ずそそぐ」
「高志殿……。かたじけない……」
蓮華が頭を下げる。
俺はそんな彼女の肩に手を置いた。
「気にするな。俺たちは家族だ。***も分かってくれているさ」
家族の誰が欠けても、幸せにはなれない。
復讐は、家族全員でやり遂げる。
俺は改めてそう決意したのだった。
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