俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナ。
それにハルク男爵、彼の妻、彼の娘サリエ。
9人で夕食を食べ進めつつ、雑談しているところだ。
「な、なんと。5人もの妻を娶るつもりか。なんとも豪快な男だな」
ハルク男爵がそう驚く。
確かに、5人の妻を娶ることは普通はムリだ。
まずは、お金。
婚姻関係にある男女においては、男性側が多く稼ぐべきと考えるのが一般的ではなかろうか。
複数の女性を養えるほどの収入を稼ぐことができる男は、限られてくる。
もちろん、男女平等という理念を持っている人を否定するつもりはない。
ただし、女性は妊娠・出産時に大きな身体的負担があるので、そこは考慮しなければならないだろう。
次に、時間。
複数の女性やその子どもに対して、平等かつ十分な時間を費やせるか。
単に生活費や育児の費用を出せば済む話ではなく、自分の時間を使って彼女たちと向き合う必要があるだろう。
そして、忘れてはならないのが精力だ。
性欲と言ってもいい。
人間である以上、子どもをつくりたいというのは当然の欲望だろう。
子どもをつくるには、やることをやる必要がある。
しかし複数の妻がいれば、そのやる回数が単純に人数で割られた数になりがちだ。
やる回数が減りすぎると、子どもができる確率が減る。
それをよしとしない妻もいるころだろう。
俺がミティ、アイリスに加えて、モニカ、ニム、ユナを妻に迎えるには、このあたりの覚悟が必要となる。
だが、さほど心配はしていない。
俺にはステータス操作というチートがあるからな。
金については、問題なく稼いでいけるだろう。
時間については、同じパーティで行動するため一定以上の時間は確保できている。
あとは定期的に、それぞれと2人きりで過ごす時間もつくっていきたいところだ。
精力については、今のところは素の能力でなんとかなっている。
いざとなれば、ステータス操作という奥の手がある。
精力強化や性欲強化など、そのものズバリのスキルがある。
できれば戦闘系のスキルを優先したいが、最終手段としてはこういうスキルを取得するのもありだろう。
「ええ。みんなを満足させられるよう、今後もいろいろとがんばっていかなくてはなりません」
そう、いろいろとね。
「うむ。そちらのお嬢さんたちとも結婚して、彼女たちが特別表彰者になれば、タカシ君の叙爵の決め手になりうる。貴族になればしがらみは増えるが、収入や身分は安定する。家族を幸せにする上で、役立つだろう」
ハルク男爵がそう言う。
「気が早いかもしれませんが、1つ不安要素はあります」
「なんだ? 言ってみろ。力になれるかもしれん」
「俺は街の運営などについてはまったくの素人です。こんな俺でも、叙爵されて街を治めることができるのでしょうか?」
俺はそう言う。
内政チートは異世界ファンタジーの定番だが、残念ながら俺にそういう知識はない。
このサザリアナ王国やウェンティア王国は、法体制、衛生、食文化などについてなかなか高い水準にあるしな。
強いて言えば、科学については現代日本よりも大きく劣ってはいる。
しかしその代わり、魔法が発達している。
俺が知っている程度の科学を広めたところで、どの程度有効かは疑問が残る。
このあたりは、調査と考察が必要だな。
「街の運営かね。その点は大きな心配は要らない。代官を雇えばいい。優秀な者のツテがあるならそれでいいし、ないなら今の町長をそのまま代官として雇えばいいだろう」
「そんなものですか。それなら、わざわざ貴族を取り立てずに現状のままでもいいのでは?」
「それがそうもいかん。ラーグの街の周辺で、魔物の生態系が乱れているらしい。それに、何やら盗掘団が近郊に居座っているとも聞く」
ハルク男爵がそう言う。
確かに、ラーグの街周辺の魔物の生態系は乱れてきている。
俺がユナたちと西の森へ遠征したときに、ホワイトタイガーと遭遇した。
災害指定生物第3種に該当する危険な魔物だ。
その後、荒ぶる爪と西の森で狩り勝負をしていたときには、スメリーモンキーと遭遇した。
こちらはさほど危険な魔物ではないものの、西の森には生息していないはずの魔物だ。
さらに、俺たちがゾルフ砦を訪れるためにラーグの街から離れている間には、魔物が街になだれ込んでくるという事件があったと聞いている。
死者は出なかったものの、ケガ人や家屋の被害は出た。
モニカも被害を受けた者の1人だ。
そして盗賊団か。
そういった存在が居座っていることについては初耳だ。
やはり、平和に見えるこの世界にも悪者はいるのだ。
気を引き締める必要がある。
「盗賊団ですか。俺は出くわしたことはありませんが……」
「ん? いや、盗賊団ではなく盗掘団だ。西の森の奥地で、違法な採掘をしているらしい。捕縛隊を送ることも検討されているそうだが、西の森を横切るのは冒険者でないと難しい。それに、盗掘団の連中にはなかなかの強者がいるそうだ。街や国としても対応策に苦慮している」
ハルク男爵がそう言う。
盗賊団ではなく盗掘団か。
多少は平和的な響きに聞こえる。
まあ、法に違反している時点で油断はできない相手だろうが。
「それで、その魔物の生態系の乱れや盗掘団の存在が、どうして貴族の取り立てに繋がるのです?」
「冒険者上がりの強者を叙爵することで、いざというときの防衛戦力にするためだよ」
「なるほど。しかし、冒険者であれば街を離れることも多いのでは?」
「強者の領地だとアピールできれば、無法者への抑止力にはなる。魔物のほうは、定期的に領地を巡って討伐してくれれば問題ないというところだろう」
ハルク男爵がそう説明する。
縄張りのようなイメージかな。
このラーグの街は、俺の縄張りとする!
みたいな。
「そういうことですか。それなら、俺にも務まるかもしれません。少し積極的に狙ってみることにします」
「そうですね! タカシ様の偉大さを世間に知らしめるいい機会です!」
「ボクも、権力者の妻ともなれば、もっと多くの人を助けられるかも。いいことだね」
俺、ミティ、アイリスがそう言う。
「それがいいだろう。時間があれば、人材にも目処を立てておくといいぞ。さすがに代官クラスの者はすぐには見つからんだろうが、執事やメイドあたりはな」
「執事やメイドですか。確かに、叙爵とは関係なしに、そろそろ俺たちの家にも数人くらいを雇おうかと思っていたところです。ただ、なかなかいい人材のツテがなく……」
俺はそう言う。
資金は潤沢にあるし、人を数人雇うぐらいは問題ない。
奴隷を購入するのもありだ。
だが奴隷は、加護要因兼戦闘員としてパーティに加入してもらって連れ回すか、自宅周りの雑用をしてもらうかの二択となる。
まず欲しいのは、自宅の家事全般を取り仕切ってくれる、リーダー的存在だ。
それで人手が不足するようなら、奴隷を購入するのもいいだろう。
「そうだな。セルバスは我が家の大切な執事だし、譲れないとして……。セルバス。だれか候補はいないか?」
「それでしたら、私の叔父であるセバスが適任でしょう。隣街の商家にて長らく執事を務めていました。彼の息子に役目を譲り一度は引退しましたが、最近になってまた働き口を探しています。なんでも、働いていないと落ち着かないとのことで」
ハルク男爵家の執事であるセルバスがそう言う。
「うむ。タカシ君がよければ、そのセバスを紹介しようではないか。どうだね?」
「それはありがたい。お給金や仕事内容など、詳細の相談を後日致しましょう。よろしくお願いします」
とうとう、我が家にも念願の執事が来るのか。
40代くらいのセルバスの叔父ということは、60代くらいかな。
素敵なオジサマが来ることに期待しよう。
ただし、あんまりイケメンで好色だったりすると、ミティやアイリスたちが狙われないか心配だ。
そこだけは注意して見ておかなくてはならない。
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