『……今の我が身では、貴方には敵わないようですね』
少女がぽつりと呟く。
その声音は静かで、諦念と共にどこか清澄な響きを帯びていた。
「なんだと?」
俺の眉がわずかに動く。
目の前の少女は、ただの虚勢でもなく、臆病な降伏でもなく、己の現状を淡々と受け入れた者の目をしていた。
『新月の日なら、まだ勝機はありましたが……。これも含め、運命なのでしょう……』
微かな光が宿る瞳に、一瞬の翳りが落ちる。
それは敗北を悟った者のもの――だが、不思議なことに、その表情には嘆きも、悲しみも、恨みすら浮かんでいなかった。
ただ、静かに受け入れているような、そんな顔だった。
次の瞬間、彼女は迷いなく腕を振るい、再び光弾を放つ。
その動作には、怯えや逡巡はなかった。まるで、最初から決めていたかのように。
俺は即座に反応する。研ぎ澄まされた刃のように鋭く意志を込め、腕を振るった。刹那、光弾が弾き飛ばされ、爆ぜるような衝撃が空間を震わせる。閃光とともに、目に見えぬ力の波が戦場に広がった。
『この地の封印を暴力的な手段で解いた者よ。貴方に、慈悲を求めます』
「慈悲だと?」
俺の声には嘲笑が滲む。
戦場において慈悲を請うことが、どれほど虚しい行為か。
これほどの実力者が知らぬはずもあるまい。
『私の眷属たちを害さず、この地の平和を乱すことなく去ってください。そうすれば、その陣は解除させましょう』
交渉の言葉。
しかし、それは敵対する者に対して、果たしてどこまで意味を持つのか。
俺は鼻で笑った。
「俺がそれを聞くと思うのか?」
無意味だ。
交渉など必要ない。
俺には力がある。
この程度の封印、自力で突破してみせる。
少女や巫女を撃破すれば、紅葉の拘束も解けるはずだ。
低く響く俺の言葉に、少女の表情が微かに揺らぐ。
彼女の瞳は深い湖のように静かに波打ち、その奥で何かを計算するように沈んでいく。
まるで、百手先を見据え、勝負を決する策を練るかのように。
そして、彼女の唇から紡がれた言葉は、俺の予想を大きく覆すものだった。
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