「さぁて……。フレンダはちゃんと仕事してくれているかね?」
俺は『レビテーション』で飛行しながら、森の上空を進んでいく。
すると――
「フレンダ姉さん! リトルベアがそっちに行きました!」
「あは~。フレンダちゃんに任せて~」
俺の眼下で、フレンダたち一行がリトルベアと戦っている姿が見えた。
ちょうどいい。
フレンダの実力を見たいと思っていたところだ。
(リトルベアは中級の魔物だが……どう倒すのかな?)
DランクやEランクパーティ単独で倒すことは難しい。
人数を掛ければ、一定のリスク付きでなんとか狩れるぐらいだ。
Cランクパーティなら単独でも撃破できるが、それでも多少のリスクはある。
緊急時ならばともかく、最初からリトルベア戦を視野に入れるならば複数のCランクパーティで対処した方が確実だ。
まぁ、今の俺ならば一人で余裕を持って倒せるけどな。
貴族としての活動に注力しているので冒険者ランクこそまだBのままだが、実質的な戦闘能力はAに近いと自負している。
実質的にAランクの俺ならソロでも楽勝で、Cランクならば人数を掛けて対応する。
ならば、Bランク冒険者のフレンダはリトルベアをどのように討伐するのか?
興味があったのだ。
「――せいっ!!」
「ガアァッ!?」
フレンダが放った強烈な拳が、リトルベアを弾き飛ばした。
リトルベアは勢いよく木に激突し、そのまま絶命した。
「はい、終わり~」
「「さすがです! フレンダ姉さん!!」」
取り巻きが歓声を上げる。
ふむ。
一撃か。
強いとは予想していたが、まさかこれほどまでに強いなんてな。
想像以上だ。
「…………」
俺は思わず無言になってしまった。
フレンダは攻撃重視の武闘家なのかな?
選別試験でミリオンズと対峙したときには、アイリスの五光一閃で瞬殺されていたため、彼女の戦闘スタイルは不明のままだった。
”魅了”という二つ名から、状態異常系の魔法を使う可能性も考慮していたが。
俺が思考している間に、フレンダたちはリトルベアをアイテムバッグに収納した。
やはりBランク冒険者。
一般的には高価とされるアイテムバッグもしっかりと所有しているようだ。
「やりましたね、フレンダ姉さん!」
「リトルベアはそれなりの金になるはずです!」
取り巻きたちがそんなことを言う。
「うん、そうだね~。でも……」
しかし、当の本人は浮かない顔をしていた。
「ん? どうかしましたか、フレンダ姉さん?」
「このあたりじゃ、リトルベアの素材は飽和気味らしいよ~。あんまりお金にはなりそうにないね~」
一般的に、魔物を狩る理由は大きく二つある。
一つは、魔物の素材を得るため。
可食部位の大小は魔物の種類によって差異があるが、全く食べられない魔物というのは少ない。
また、魔石や角など、有用な資源となる部位も存在する。
二つ目は、危険排除のため。
基本的に魔物は、人里から離れたところに生息する。
しかしそれは、地理的に魔物が寄り付きにくい場所を選んで街や村を作っているというだけだ。
ときに、魔物が人里や街道近くに出没することもある。
そういった魔物は、人々にとって脅威となり得る。
だから、冒険者が定期的に間引いておかなければならない。
ハイブリッジ男爵領では、俺たちミリオンズや配下の活躍により、魔物の数が減っている。
フレンダが指摘した通り、素材は飽和気味で市場価値が低下傾向にある。
「それは確かにそうですね。では、やはりフレンダ姉さんの本来の目的を果たすしかありませんか」
「あは~。そうだね~」
フレンダの本来の目的だと?
何か企んでいるのか?
確かに、Bランク冒険者であるフレンダがわざわざこんなところに来ていることに違和感はあった。
近頃急速に発展しているとはいえ、ハイブリッジ男爵領はまだまだ田舎だ。
しかも、ここはその中でもさらに辺境である。
各国の王都に比べれば、何もない場所と言っても過言ではない。
なのに、なぜフレンダはここにいるんだろう?
俺はそのことが気になり始めていた。
「あの男はどうでしたか? フレンダ姉さんに鼻の下を伸ばしていましたが。やはり、下劣な男共の親玉も下劣ということでしょう」
「あは~。あれくらいの方が可愛いと思うけど~」
「えぇ……。あんな男、フレンダ姉さんならもっといい男がいくらでもいるでしょう?」
「う~ん、いないことはないんだけどね~」
…………。
文脈から察するに、『あの男』というのは俺のことだろうか?
結構な低評価っぷりである。
フレンダの忠義度は20代、取り巻き二人の忠義度は10代だ。
フレンダはそれなりに高いが、取り巻きたちから俺への脈はなさそうか。
先ほど会話した感じでは、貴族家当主である俺に対してビビっている様子ではあった。
しかし、怖れることと忠義を感じることはまた別問題だ。
まぁいい。
とりあえず今は、冒険者として貢献してくれるだけで十分だ。
「さてと……そろそろ時間かな~」
「もうですか? まだ狩りをできる時間はありますが……」
「タカシちゃんにアプローチしなきゃね~。地道に狩りをするより、そっちの方が稼げるでしょ~」
「あ、それもそうですね!」
俺のことを金づるとして見やがって……。
フレンダたち一行は……なんというか、その……。
とてもたくましい感じの女性陣だな。
俺は思わず苦笑してしまう。
さて。
そろそろ話し掛けるか。
俺は『レビテーション』を制御し、下降を始める。
そして、俺が地面に降り立ったときだった。
「フレンダちゃんに任せておいてよ~。メロメロにさせて、ばんばん貢いでもらうから~」
「さすがはフレンダ姉さん! ……あ」
「あっ」
「え?」
フレンダたちが俺の存在に気づき、一斉にこちらを見る。
そんなに見られても困るぞ。
「やあ」
俺はとりあえず、そう声を掛けたのだった。
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