俺は魔導技師ムウの治療を行っている。
まずは魔力を心臓付近に注ぎ、マッサージに取り組んだ。
「うぅ……。ダーリン……」
「兄さん……」
「……うーん」
モニカとニムは心配そうな顔でこちらを見つめていた。
メルルは何か考え事をするように腕組みをしている。
「くっくっく……。これで、ムウの体は俺のものだ……」
「兄さん、何を言っているのですか?」
「えっ? いや、何でもないぞ」
危ない。
つい本音が漏れてしまった。
「でも……。ダーリンはいつも、こんな感じで女の人に迫っている気がするんだけど……」
「気のせいだ。俺は女たらしじゃない」
「……本当に? ナオミちゃんやナオンさんも、こうやって手籠めにしたんじゃないの?」
「手ご……っ!! 失礼だな。純愛だよ!」
俺は全力で否定した。
確かに、彼女たちにマッサージをしたことはあるし、それなりに深い仲になっているが……。
無理やりではない。
ナオミやナオンにもし子どもができたら、しっかりと責任を取るつもりである。
俺には既に第八夫人までいるので、結婚するかどうかまでは分からないが……。
少なくとも、彼女たちや子どもに対して金銭的な援助は十分に行うことが可能だ。
「……兄さんのことは信じていますよ」
「本当か?」
「はい。でも、さすがにムウさんに手を出すのは……」
「…………そうだな。いくら何でもマズイか……」
ニムの懸念に思わず同意してしまう俺。
ナオミやナオンとは違い、ムウとの付き合いはまだまだ浅い。
共に過ごした時間という意味でもそうだし、単純に初めて会ったときからの経過時間という意味でもそうだ。
いや、しかし忠義度という意味では、当時のナオミやナオンに引けを取らないんだよな。
なにせ、絶体絶命のピンチを救ってあげたわけだからな。
おまけに、救出時は怪しげな『ナイトメア・ナイト』で、その後に『タカシ=ハイブリッジ男爵』という正体を明かしたわけだし。
ちょっとした物語のヒロインのような気分になっていてもおかしくない。
「……いや、だから違うって! これは治療行為だ! ムウを救うために仕方なく行っていることなんだ!!」
俺は力説する。
モニカ、ニム、メルルの3人は半信半疑な様子だ。
ここは俺の技量を見せるしかないな。
「――みんな、見ていてくれ」
俺はムウの胸を揉みながら、語り掛ける。
ひと揉みごとに、彼女の心臓付近の魔力回路が正常化されていくのを感じる。
そして、ムウの呼吸が安定してきた。
「……う、うーん」
ムウは小さなうめき声を上げる。
まだ意識を取り戻さない。
だが、確実に回復傾向にあるのを感じる。
俺が治療魔法『リカバリー』で外傷を治療しなかったら、全治におよそ1週間は掛かっていただろう。
外傷だけは治療したが魔力回路は放置――という状態なら、目を覚ますまで24時間といったところか。
今は、外傷を治療した上に、心臓付近の魔力回路を正常化した。
「これで魔力回路の調整は半分ほど終了した」
「半分……ですか? 後は、ムウさんが目覚めるのを待つだけでしょうか?」
「そうだな。何もせずとも、12時間ほどで目を覚ますだろう。だが、多少の体調不良は伴うかもしれない」
「それは……」
メルルが不安げな表情を浮かべた。
俺はそんな彼女を安心させるため、あえて自信ありげに言葉を続ける。
「安心してくれ、メルル。俺は患者を中途半端な状態で放り出すような真似はしない」
「そ、そうですよね。信じています。ハイブリッジ様」
メルルは笑顔を見せた。
俺はそれに満足すると、今度はムウの胸ではなく、股間へと視線を向ける。
「――次は股間の方に取り掛かる」
「えっ……!?」
「あ、兄さん……!?」
「ダーリン、やっぱり……!!」
「だから誤解だって! これは治療のために必要なことなの!!」
俺は叫び返す。
――人体で重要な箇所はどこか?
最も大切なのは、もちろん脳だ。
ここが損傷すれば、他の箇所がどれだけ無事であっても意味がない。
即死してしまう。
次に重要なのは、心臓や肺である。
どちらも血液や酸素を循環させる役割があり、生命維持には必要不可欠な器官だ。
脳と違って、傷付いても即死はしない
しかし、重度の損傷なら数秒から数十秒で死に至るし、自己治癒も難しい。
実質的には即死に近いと言っていいだろう。
では、脳・心臓・肺の次に重要なのはどこだろうか?
「股間から下腹部には、大切な臓器がいくつも存在する。そして同時に、魔力回路も密集しているんだ」
「そ、そうなのですか……?」
「俺を信じてくれ、メルル。必ずムウを治療してみせる」
俺はムウの股間付近の衣服をずらす。
大切なところがあらわになった。
腕や足は衣服で覆われている一方で、胸や股間だけが露出するというアンバランスさが実に背徳的だ。
しかし、俺は野獣になったりはしない。
これは治療行為だ。
妙な露出方法になっているのは、意識不明瞭のまま治療行為を受けることになったムウへのせめてもの配慮である。
別に、俺の趣味ではない。
「では、いくぞ……」
「あ……。え? そ、そんなものがムウさんの中に……? はわわ……」
メルルは顔を真っ赤にして手で覆った。
指の間からはバッチリ見ているようだったが……。
俺は気にせず、ムウの治療行為を続けていくのだった。
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