薄幸の少女ノノンは、最後の勝負に負けてしまった。
「嬢ちゃんの負けだな。さあ、義務を果たしてもらおうか」
ロッシュがニヤリと笑い、ノノンに言う。
「うっ……」
ノノンは泣きそうな顔になりながらも、ロッシュの言葉に小さくうなずく。
そして、彼女の身を守る最後の砦に手を伸ばす。
「おっと。せっかく最後なんだ。そこのテーブルに立ってやれよ」
「え……? い、いやです!」
ロッシュの要求に、ノノンは反射的に拒絶を示す。
ただでさえ、羞恥で死にそうなのだ。
高い位置に上って男たちから見上げられながら脱衣するなど、絶対に嫌である。
「おいおい。俺の言うことが聞けないってのか? ん?」
ロッシュが凄む。
「ひっ。や、やります……」
ノノンは怯えながら従うしかなかった。
彼女は震える足で立ち上がり、テーブルの上に立つ。
「へへへ」
「ひひっ」
「ふぅー!」
「うう……」
観客たちの視線に晒されたノノンは、恥ずかしくて顔を真っ赤にする。
しかし、逃げ場はない。
彼女は意を決して、最後の砦であるショーツを脱ぎ始める。
「おお!」
「やはりこれぐらいの年齢が格別ですね」
「もっとやれ!」
観客たちが興奮して叫ぶ。
ノノンは耳まで赤く染め上げ、目に涙を浮かべて下着を下ろす。
「へへ。これで嬢ちゃんは丸裸だなぁ。ほら、よく見えるようにポーズを取ってみろよ」
「くっ……」
ノノンは悔しげな表情になり、固まる。
しかし、逆らうことはできない。
両手で胸を隠しながら、おずおずと両足を左右に広げる。
「うぉ! いいぞ!!」
「もっとだ! もっと見せてくれ!」
観客がさらにヒートアップし、歓声を上げる。
だが、ノノンにはこれが限界だ。
これ以上の痴態は、とても耐えられない。
「も、もう許してください……。無理です……」
彼女が涙ながらに懇願する。
だが、興奮状態にある男たちには通じない。
「おら! 白けさせるんじゃねえよ!」
「しゃあねえガキだな! 俺たちが手伝ってやる!」
「あっ!?」
男たちがノノンの足を掴み、左右に大きく広げていく。
「いやぁ……、ダメ……。こんなの、ダメぇ……」
ノノンは弱々しく抵抗するが、多勢に無勢だ。
結局、足を開かされてしまう。
「おお……」
「さすがは僕が見込んでいた逸材ですね……」
「まだガキじゃねえか。こんなので興奮するなんて、五幹部は変態ばかりかよ」
「そんなことを言っているからお前は出世できんのだ。この素晴らしさがわからんとは!」
「うう……」
ノノンは涙を流す。
早く終わって欲しい。
その一心で、必死に耐える。
「さて、そろそろいいだろう。野郎ども、嬢ちゃんを解放してやれ」
「ええー!? そりゃねえっすよ、ロッシュの頭」
「ここからが本番じゃないですか」
「うるせぇ。テメェらは黙って従えばいいんだよ」
ロッシュは部下たちを睨んで黙らせる。
今のノノンには、ロッシュが救いの神に見えた。
まあ、今の状況を招いたのもロッシュなのだが……。
「あ、ありがとうございます」
ノノンが感謝する。
しかし、次の瞬間、ロッシュが下卑た笑みを浮かべる。
「へへ。商品の価値を保全するのは当然のことだからな」
「……? どういう意味でしょうか?」
不思議そうに首を傾げるノノン。
そう言えば、さっきも商品がどうとか言っていたか。
その時は流してしまっていたが……。
「決まってんだろうが。嬢ちゃんには高い価値があるってことだ」
「……え?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「ギャンブルに負けた嬢ちゃんには、奴隷に堕ちてもらうぜ。お前はもう俺たちの所有物だ」
「なっ!? は、話が違います! わたしが賭けていたのは服だけ。負けて失うのは、賭けていたものだけでしょう!」
ノノンが必死に反論する。
コワモテの男たちに囲まれている今、彼女が縋るのは約束事だけだ。
実力行使に出られれば、彼女に抵抗する術はないのだから。
「ああ。確かに言ったな。だけど、それは当初の話だろ? 最後の試合のレートアップに、嬢ちゃんも同意したじゃねえか。金貨100枚を賭けるってよ」
「そ、そんな……」
ノノンの顔から血の気が引く。
確かにそんなことを言っていた気がする。
きちんと確認しなかった自分のミスだ。
「そんなことは聞いてません……。嫌です、お家に帰らせてください……」
ノノンはしらばっくれ、泣きそうな顔で訴える。
「そうはいかねえなぁ。一度成立した契約は絶対だ。たとえ王であっても破ることはできねぇ」
「うう……」
「嬢ちゃんよぉ。裏の世界にも、仁義ってものがあるんだ。俺たちがその気になりゃ、嬢ちゃんを誘拐して遠くの好事家に売っぱらうこともできる。そうしないのは、筋を通したいからだ」
実際には、あまり悪どいことをやり過ぎると王都騎士団に目を付けられるからだが。
ロッシュは自分の都合のいいように言い換えている。
「…………」
「分かるか? もし嬢ちゃんが約束事を反故にしようってんなら、俺たちにも考えがある。奴隷に堕ちていた方がマシだったと思えるほどの目に遭わせてやろうか?」
「ひっ!」
ノノンが怯えた声を上げる。
ロッシュの目は本気だった。
黒ずんだ目からは狂気が伝わってくる。
この男は、本気で言っている。
「わ、分かりました……。奴隷になります……」
「はぁ? 奴隷になります、だと? おいおい、ギャンブルの精算は現金払いが基本だぜ? 支払い金がなくて奴隷堕ちで現物払いになるのは、嬢ちゃんの都合じゃねえか。ちゃんとした言葉遣いで、筋を通してくれよ」
ロッシュが意地悪く笑う。
ノノンが悔しげに唇を噛む。
「ううっ……。ど、奴隷にならせてください。お願いします……」
「おう! よく言えたじゃねえか!」
ロッシュが満足げに笑い、ノノンの頭を撫でる。
「それじゃあ、まずは撮影会から始めるか!」
「え!?」
「これから嬢ちゃんは、大勢の男の前で体を晒すことになる。その記念すべき最初の一枚を撮らなくちゃなぁ」
「そ、そんな……」
「ほれ、野郎ども準備をしろ」
ロッシュがそう指示を出すが……。
「ロッシュの頭、お言葉ですがもう日が明けます。日中に動いていては、例の男に嗅ぎつけられるかも……」
「例の男? ……ああ、”紅剣”とかいう奴か。『黒狼団』や『白狼団』を潰した奴だったな」
「へい。次は俺たちを狙っているという噂もあります。ここは慎重に動くべきかと」
「わかった。なら、続きは日が沈んでからにするか。へへ、嬢ちゃん。せいぜい最後の一時を楽しむんだな」
ロッシュは下卑た笑みを浮かべると、部下たちを連れて部屋の出口へと向かう。
「おっと。こいつを忘れるところだったぜ。へへ」
彼は最後に、脱ぎ捨てられたノノンのショーツを大事そうにポケットに入れた。
そして、悠然と去っていく。
後に残されたノノンは、絶望的な表情を浮かべていたのだった。
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