アヴァロン迷宮の宝物を無事に回収した。
そして、みんなでダンジョンを逆走し、出口まで戻る。
このダンジョンは、ルクアージュの沖合の孤島にある。
帰りは船により移動しなければならない。
みんなで船に乗り込む。
俺の近くには、ミリオンズの面々、それに千がいる。
千は危険な存在なので、実力確かな俺たちに監視を任された感じだ。
彼女は両手を縛られており、物理的な抵抗はほとんどできない。
しかし、魔法は発動可能だ。
危険な魔法を発動したりしないか目を光らせておかないとな。
「ふう。いろいろあったが、無事に一件落着でよかった」
俺はそうまとめる。
「そうですね! ティーナさんとドラちゃんという新たな仲間も増えましたし」
「うん。ティーナちゃんは、いろいろと頼りになるね」
ミティとアイリスがそう言う。
高性能ゴーレムのティーナは、様々な機能を持つ。
俺のアイテムルームに類似した『アイテムコンテナ』や、対象人物の体調を正確に把握する機能。
さらには、マスターである俺の意向を推測する機能もある。
ミリオンズの一員として迎えられれば、頼りになる存在となる。
もしくは、ラーグの街まで連れ帰って屋敷の警備を任せるのもありだ。
キリヤやクリスティに負けず劣らずの活躍を見せてくれるだろう。
「ふふん。ドラちゃんは、私の友だちとして連れていくわよ」
「うん。ユナ、タカシ、それに他のみんなも。よろしくね」
ドラちゃんがそう言う。
彼女を人里に連れ帰るにあたって、懸念点が2つあった。
1つは、安全性の懸念。
ユナのテイムが切れて、突然暴れだしたりしないかという懸念だ。
しかし、ドラちゃんはテイムを受け入れる前から一定以上の知能を見せていた。
多少の不足の事態が起ころうとも、無闇に人を傷つけたりはしないだろう。
もう1つは、サイズの懸念。
彼女の巨体が人里で迷惑をかけないかという問題だ。
これについては、ドラちゃん自身が解決してくれた。
魔力操作の応用で、肉体の大きさもある程度は変えられるそうだ。
竜種の肉体構成は人族とは大きく異なり、魔力が密接に関係しているらしい。
今のドラちゃんは、体長2メートルぐらいである。
これなら、オオトカゲと言えなくもない。
人里を連れ回しても、大混乱などは引き起こさないだろう。
超常の存在であるドラちゃん、トカゲと間違われて街を追放される。
今さら戻って来いと言われてももう遅い。
……などという事態にならないように、少し気をつけないとならないが。
「全員乗ったな? では、船を出すぞ!」
リールバッハがそう言う。
そして、船が孤島を出港する。
目的地はもちろん、ルクアージュだ。
移動にかかる時間は数十分といったところだろう。
「はー。いい風だねー」
「この塩味のする風を感じていますと、海の幸を食べたくなりますわ。……じゅるり」
アイリスとリーゼロッテがそう言う。
「今回の件が落ち着いたら、次の予定は決まってないよね? 少し、海に入ってみたいな」
「わ、わたしも興味があります」
モニカとニムがそう言う。
「そうだな。せっかくだし、海水浴でもするか? 海水浴場は開放されているようだったし」
ルクアージュには海水浴場もある。
選別試験やダンジョン攻略を前にのんきに遊ぶ気にはならなかったのでスルーしていたが、用件が片付いた今なら問題ない。
「ふふん。悪くないわね」
「お肌の日焼けが心配ですね……。しっかりと日焼け止めの薬草を用意しておかないと」
ユナとサリエがそう言う。
ミリオンズには活動的で細かいことは気にしない女性が多い。
そんな中、美容に最も気を使っているのがサリエだ。
「わあい! マリア、湖は入ったことがあるけど海は初めて!」
「私もそうですね。ハガ王国のスプール湖以来ですか」
ミティがそう言う。
ハガ王国とサザリアナ王国間の武力衝突の件の後に、湖水浴をしたことがある。
もう1年以上前のことだ。
俺、ミティ、アイリス、マリアの4人の他、バルダイン、マクセル、六武衆などが参加していた。
懐かしい思い出だ。
「ふむ。拙者の国でも、海に入る習慣はあまり広まってはござらぬ。足までつかったことはあるが……」
蓮華がそう言う。
彼女の出身国であるヤマト連邦は島国だ。
新大陸の一角にあるサザリアナ王国と比べると、海に面する割合が大きい。
その分、海に対する馴染みもあるのだろう。
俺たちがそんな会話をしている間にも、船は進んでいく。
ぐらっ。
不意に、船が少し傾いた。
「むっ! だいじょうぶか? みんな」
「ふふん。この程度の揺れなんて、問題ないわよ」
ユナがそう答える。
彼女は脚力自体はさほど強くないが、身のこなしやバランス感覚には秀でる。
確かに、この程度の揺れは問題ないだろう。
「織田家として、船には何度も乗ったことがある。この程度の揺れに耐えることなど、造作もない」
蓮華は船に乗った経験があるそうだ。
「わたくしも手すりに掴まっているのでだいじょうぶですわ」
ミリオンズで足腰が弱いのがリーゼロッテ、それにサリエあたりだ。
しかし、ちゃんと手すりに掴まっているので問題ない。
ぐらっ。
ぐらぐらっ。
船が立て続けに、大きめに揺れる。
海流が激しいところに差し掛かったのだろうか。
「少し危ないかもしれないな。みんな、ちゃんと手すりに掴まるんだぞ」
「わかりました。むんっ!」
ミティが力強く手すりに掴まる。
他の者も同様だ。
しかし、1人だけ手すりに掴まれない者がいる。
「うふふ。みなさん薄情ですわね。わたくしを放置ですか」
千だ。
両手を縛られた彼女は、もちろん手すりに掴まることができない。
「すまなかったな。俺が補助しよう」
俺は千に近づく。
そのときーー。
ぐらぐらぐらっ!
船が一際大きく揺れる。
「うおっ!?」
「あんっ!」
ドターン!
俺はたまらず倒れ込んだ。
むにゅっ!
「……む? なんだ、このすばらしい感触は……?」
むにゅっ、むにゅっ!
柔らけえ……。
どこかで揉み覚えのある懐かしい感触のような気もするし、初めての感触のような気もする。
「なっ! ちょ、ちょっと……。やめてください!」
千がそう叫ぶ。
俺は周囲の状況を確認する。
…………。
どうやら、俺がもんでいたのは千の胸だったようだ。
「す、すまなかったな」
さすがにこれは俺が悪い。
「タカシさんは、ずいぶんと鬼畜なのですねえ。女性の手を縛って、辱めるとは……」
千が冷たい目で見てくる。
その言い方はやめろ。
別に間違ってはいないので反論もしにくい。
周囲から、注目が集まる。
「す、すげえ! あの黒幕っぽい女に、さっそく手を出しているぞ!」
「さすがはタカシの旦那だ! そこに痺れる憧れるぅ!」
トミーたちがそう囃し立てる。
そこはかとなく印象が悪い。
俺の女好きが広まってしまいつつある。
今のは本当にハプニングなのだが。
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