タカシたちがどすこい寿司にて食事を満喫している頃ーー。
ラスターレイン伯爵邸にて。
リーゼロッテの筆頭護衛騎士であるコーバッツが、ラスターレイン伯爵家の当主たちに報告を行っているところだ。
「リーゼロッテお嬢様は、無事にハイブリッジ騎士爵とソーマ騎士爵の協力を取り付けました。つい先ほどこの街に到着したところです。取り急ぎ、私が報告に参りました」
「ふむ……。リーゼロッテは一仕事したな。ハイブリッジ騎士爵の実力の底はまだわからないが、あれだけの功績を上げているのだ。期待できるだろう。ソーマ騎士爵の実力も確かだ」
満足気にそう言うのは、ラスターレイン伯爵家の当主であるリールバッハだ。
ダンジョン攻略、そしてファイヤードラゴンという強敵に挑むためには、強者はいくらでもほしいところである。
「出来損ないのリーゼロッテも、たまには役に立つようですね。それで、肝心のリーゼロッテたちはどこに?」
そう問うのは、ラスターレイン伯爵家の長男リカルロイゼだ。
メガネをかけた理知的な男である。
「長旅でお疲れのようで、今は先に食事をとられているところです」
「なんと。私たちへのあいさつを後回しにして、ゆうゆうと食事ですか。リーゼロッテたちは、いいご身分ですね」
リカルロイゼがそう言い放つ。
口調は丁寧だが、言っている内容は攻撃的だ。
「そう言ってやるな、ロイゼ兄。あいつはあいつなりに、がんばっているんだからよ」
次男のリルクヴィストがそうフォローする。
ラスターレイン伯爵家の中で、リーゼロッテの立ち位置はやや微妙だ。
水魔法の名門に生まれておきながら、20歳を超えてもまだ中級のアイスレインまでしか使えなかった。
つい先日、やっとのことで上級のブリザードを使えるようになったところだ。
ラスターレイン伯爵家においては、10代の中頃には上級の水魔法を使えるようになるべしとのしきたりがある。
長男のリカルロイゼ、次男のリルクヴィスト、そして次女のシャルレーヌ。
それぞれ、しきたりの通り10代の中頃には上級水魔法の習得に成功している。
今の四兄妹の中で、しきたりの通りにできなかったのはリーゼロッテだけだ。
リーゼロッテ本人はあまり深刻に捉えていなかったが、やはり少し居心地が悪いとは感じていた。
各地のおいしいものを食べるという目的や、水魔法の威力を増強すると言われる蒼穹の水晶を探すという目的を兼ねて、家を出て冒険者として活動していたのである。
長男のリカルロイゼは、水魔法への適正が低いリーゼロッテのことをはっきりと見下している。
次男のリルクヴィストも以前は似たような感じだったが、ゾルフ砦の防衛戦などを通して少しだけリーゼロッテの評価を上方修正した。
リーゼロッテの戦闘能力や水魔法の腕前に対する認識を改めたというよりは、”無能は無能なりにがんばっている”という程度のものだったが。
ちなみに、今現在のリーゼロッテは、タカシに付与された加護により水魔法の腕前が格段に向上している。
水魔法レベル4が5に上がった他、MPや魔力の基礎ステータスが向上しているのである。
しかしもちろん、彼らがそれを知る由もない。
「そうですわ。ロイゼお兄様は言い過ぎです。……それに、タカシ=ハイブリッジ騎士爵といえば、リーゼ姉さまがたびたび口にしていた方です。噂されている武功以上の戦闘能力があっても不思議ではありません。彼の助力を取り付けたのは、姉さまの魅力があってこそです」
次女のシャルレーヌがさらにそうフォローする。
水魔法においてはシャルレーヌのほうが家内において高評価を得ている。
しかし、それはそれとして、彼女は優しい姉のことを慕っていた。
よくめずらしい食べ物やおいしい食べ物を紹介してくれるのも楽しみにしている。
「みなさん、落ち着きなさい。ダンジョン攻略メンバーの選別試験にあたって、ハイブリッジ騎士爵には特に注視することにしましょう。リカルロイゼさん、リルクヴィストさん。準備は上々ですか?」
リールバッハの妻、マルセラがそう言う。
「ええ。上々です」
「当日は、つつがなく進行できると思うぜ!」
リカルロイゼとリルクヴィストがそう答える。
選別試験の段取りはこの2人が中心になって進めていた。
次女のシャルレーヌもそれを手伝っている。
当主のリールバッハや妻のマルセラは、他にもいろいろと仕事があるのだ。
ここで、ラスターレイン伯爵家の戦闘能力についてざっと整理しておこう。
リールバッハは、水魔法の名門であるラスターレイン伯爵家の当主として、かなりの水魔法の腕前を持つ。
マルセラは分家の娘であったが、水魔法の素養を認められてリールバッハと結婚した。
それぞれ、水魔法以外の戦闘手段も持っている。
リカルロイゼは、水魔法の使い手だ。
氷結系の魔法を特に得意とする。
水魔法においてはリールバッハに次ぐ力量を持ち、次期当主となる見込みだ。
リルクヴィストは、水魔法においてはリカルロイゼに一歩劣る。
しかし、流水拳と呼ばれる武闘も修めており、総合的な戦闘能力は確かだ。
ガルハード杯では、エドワード司祭、マクセル、ミティと並んで同時優勝したこともある。
出場目的は強者のスカウトであり、今回の選別試験にも何人かの強者を招いている。
シャルレーヌは、上級の水魔法が使えるようになってから日が浅い。
年齢も10代中盤であり、戦闘能力においてはまだまだ発展途上と言えるだろう。
とはいえ、魔法の威力においてはそこらの冒険者よりもずっと上ではある。
「それは重畳。ハイブリッジ騎士爵の他にも、強者がたくさん集まってくれたと聞いておる。そうだな? マルセラ」
「はい。ビッグバン兄弟、雷竜拳、解体者、雪月花、支配者……。各地の錚々たる冒険者たちが集まっています」
「それに、王家からは”剣姫”ベアトリクス第三王女も来ていただけましたしね。戦力は万全です」
リカルロイゼがそう言う。
「うむ! ダンジョン攻略とファイヤードラゴンの”討伐”に向けて、各自の仕事を全うするように。領民の平和と発展のためにな」
リールバッハがそうまとめの言葉を口にする。
はたして、ミリオンズはラスターレイン伯爵家から高評価を得ることができるのだろうか。
選別試験の日は、一週間後に迫っている。
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