「さて……覚悟はできているんだろうな? 幼子とはいえ、人の頭部を吹き飛ばすほどの妖術を放ったんだ。もはや、非戦闘員という言い訳は通じんぞ」
俺は双子を睨む。
彼女たちは明らかに怯えているが……瞳の奥には、強い意志が感じられた。
「ふむ? いい目をしているな」
俺はそう呟く。
まだ幼いが……。
すくすくと成長すれば、かなりの美少女になるだろう。
「わ、わたしたちだって……桜花家の娘です」
「ねぇさまだけに頼りっきりには……できません」
「ほう?」
俺は笑う。
そして、刀を構えた。
「心意気だけは立派だな。だが、実力が伴っていなければ意味がない。悪いが、お前たちを殺す」
「や、やめよ! 妹たちには手を――」
「お前は黙ってろ」
「がはっ!?」
俺は景春を再び蹴り飛ばす。
感情の乱れで血統妖術『散り桜』の制御が不安定になっているらしい。
今の彼になら、最低限の魔力や闘気調整でも攻撃が通る。
床に倒れて動けない景春から視線を外し、俺は双子に向き直る。
「さて……。覚悟はいいな?」
「「……っ」」
「天にでも祈ってみろ」
俺は勢いよく刀を振り上げる。
ただ、実際には殺すつもりはない。
脅しだ。
深めの切り傷を負わせれば、幼い双子の戦意は一瞬にしてなくなるだろう。
そして、俺の本気さが景春に伝わり、彼は大人しく降伏するはずだ。
仮に降伏には至らなくとも、景春の精神が大いに揺さぶられることは間違いない。
血統妖術『散り桜』は特殊な上級妖術だ。
心が乱れれば、その発動は引き続き不安定になるはず。
そこを適度にボコることで、どちらにせよ景春は降伏するだろう。
まさに完璧な作戦である。
「さぁ、死ね」
俺は振り上げた刀を振り下ろす。
景春が叫ぶ。
双子が悲鳴を上げる。
だが、今の俺は闇を受け入れ気分爽快。
叫び声や悲鳴を聞いた程度で刀を止めたりは――
『タカシ様……』
「――っ!?」
突然、俺の脳内に声が響いたような気がした。
いや、声だけではない。
どこか見覚えのある美しい少女が、双子を庇うようにして俺の前に立ちはだかった。
……ように見えた。
「う……ぐ……」
ダメだ。
体が動かない。
刀を振り上げたまま、俺は固まってしまう。
『タカシ様……』
再び脳内に声が響く。
だが、もう少女の姿は見えない。
幻聴、そして幻視か……?
いったい何だったんだろう?
今の少女は……。
「「い、今のうち……!!」」
俺の動きが止まっている隙に、双子は俺から離れてしまった。
そして、景春に寄り添い、俺に対して鋭い眼差しを向けてきた。
「……なぜ攻撃を止める? まさか、貴様……」
景春が俺を見る。
その瞳には、希望が宿っていた。
「不殺主義を貫く甘い男だと思ったが……。幼子に対しては、傷さえ負わせない――負わせられないというわけか!」
「……は? いや、俺は別に……」
「ふ……ふふふ! 図星か!! それならば、こちらにもまだ勝機はある!!」
景春が笑う。
ちっ……!
少し妙な展開になってきたぞ……。
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