俺はダダダ団のアジトに潜入した。
入口の見張りは音もなく倒したので、まだ侵入はバレていないはずだ。
「まずは情報収集からといこう」
俺は『気配隠匿』のスキルを活用しつつ、慎重に行動を開始する。
潜入の目的は二つある。
一つは、囚われているエレナたちの救出。
もう一つは、ダダダ団を壊滅させることだ。
加えて隠密小型船の魔導回路部に関わっていた少女も見つかれば、言うことなしである。
「お」
「……は? な、なんだテメェ!?」
不意にチンピラと遭遇してしまった。
うっかりしていたな。
考え事をしながら進んでいたので、気配察知の方が疎かになっていた。
だが、まだ間に合う。
俺は特に慌てることもなく、対処することにする。
「怪しい奴め! 仲間を呼んで――」
「【影針】」
「あがっ!?」
俺は問答無用で男の足に影魔法を打ち込んだ。
これで男は動けなくなる。
さらに、その隙に相手の懐に入り込んで、鳩尾に拳を叩き込んだ。
よし、終わり。
(まぁ、こんなもんだろ)
俺は心の中で呟きながら、先へと進む。
「ん? こっちから声が聞こえるな」
通路を進んでいると、人の声が聞こえてきた。
どうやら誰かが会話しているようだ。
俺は耳を澄ませる。
『……ちぃ。面倒な奴らだな。この状況で動けるのかよ』
『な、何やってるのよ2人とも! 私のことはいいから!』
『んんっ!』
『んーっ!』
『はははっ! 健気だな。感動的な場面じゃないか』
『くぅ……』
『……よし、決めたぜ。まずはお前を可愛がってやる。女に生まれたことを後悔させてやるぜ。その後で、順番に残りの奴らも抱いてやる』
――ふむ。
なるほど。
(声の主は4人。エレナ、ルリイ、テナ、そして……ヨゼフとかいうダダダ団の幹部か?)
どうやら、そう遠くない場所にエレナたちが囚われているらしい。
俺は聴覚を研ぎ澄ませ、会話内容や位置の把握に努める。
何やら拷問めいたことをされている様子だ。
急ぐ必要がある。
そして、俺が位置を特定して駆け出した頃――
『へへっ。そう警戒するなって。お前には手を出さないよう、ボスに言われているんだ。その魔道具関係の腕前にはボスも一目置いているんだぜ?』
『わ、わたしはあなたたちなんかに手を貸したりは……』
『ま、焦ることはねぇ。今から俺はコイツら3人を楽しむからよぉ。その後も考えが変わっていなけりゃ、その時考えるさ。くくっ!』
『くっ……』
そんな会話まで聞こえてきた。
片方はヨゼフ。
そしてもう片方は、聞き覚えのない声だ。
しかし、会話内容から推測するに、どうやら魔導工房の少女までもが同じ部屋にいるらしい。
(一石二鳥だな)
エレナ、ルリイ、テナ、そして魔導工房の少女を救い出す。
ヨゼフを倒す。
そしてついでに首領とかも倒して、ダダダ団を壊滅させる。
それがベストな流れだ。
(よし、あそこだな)
しばらく走っていると、前方に頑丈そうな扉が見えてきた。
俺の分析によると、あそこから入った大きめの部屋にエレナたちが捕らえられている。
そして、ヨゼフがいると思われる場所でもある。
「…………」
俺は一度立ち止まり、呼吸を整える。
そして、扉を開けようとするが――
「ん?」
――開かない。
鍵でもかかっているのだろうか?
まぁ当たり前と言えば当たり前か。
せっかく捕らえた美少女たちを逃さないようにするためだろう。
(どうやって中に入ったものか……)
俺は考える。
オリジナルの火魔法を使えば、必要最低限の範囲で扉を焼却できるか?
だが、魔力・光・熱・音などあらゆる意味で目立ってしまう。
俺はこのアジトに潜入しているだけなので、多くのダダダ団の構成員たちはまだ元気な状態で残っているのだ。
こんなところで派手な真似はできない。
ここは、誰かが来るのを待つべきか?
秘密造船所に潜入したときのように、来訪者の影に潜んで中に入るという感じだ。
目立たないという意味では最も無難だが、次にいつ人が来るか分からないのが難点なんだよな。
「……」
どうしたものか。
俺がそんなことを考えていた時――
『タカシ様……助けて……』
エレナのそんな声が聞こえた気がした。
空耳か?
エレナは俺のことをタケシと認識しているはずだし、『タカシ様』なんて呼ぶはずがない。
(いや……何を迷う必要がある? 俺はタカシ=ハイブリッジ。やがて世界を救う者にして、全ての美少女の味方だ)
俺は覚悟を決めると、魔力を練り上げる。
そして、勢いよく壁を殴った。
ドゴオッ!
凄まじい破壊音と共に、周囲に土煙が舞う。
「なにっ!?」
中からヨゼフの声。
やはりこの侵入方法では、気付かれてしまうな。
まぁ仕方ない。
俺は堂々と姿を現す。
「ちっ! なんだってんだ!?」
「あ、あれは……?」
ヨゼフやエレナが驚きの表情とともに俺を見る。
今の俺は黒装束だ。
その正体が『タカシ=ハイブリッジ男爵』もしくは『Dランク冒険者タケシ』であることはバレていないだろう。
「我らはダークガーデン。闇に潜み――闇を狩る者」
俺は静かに、そう名乗ったのだった。
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