「紅乃さんのうどんは、素晴らしいものですわ。それを排除しようとするあなたを、許すことはできません」
リーゼロッテの瞳が鋭く光る。彼女の背筋は伸び、微動だにしない。
その毅然とした態度は、まるで戦場に咲く凛とした白百合のようだった。
対する琉徳は、余裕を崩さぬまま口元を歪める。
「ふん、まあいい。余所者をいたぶる趣味はないが、見せしめにはなるか。助太刀を呼ぶ以外なら、どんな悪足掻きをしてもよいぞ。せいぜい頑張るがいい」
その言葉には嘲弄の色が滲む。
軽く振った剣の刃先が、鈍く光を反射する。
まるで、これから始まる惨劇を楽しむかのような、無慈悲な光だった。
静寂が落ちる。
誰もが息を飲み、次の瞬間を待つ。
そして――
「――始めッ!」
響いた声を合図に、戦いが始まった。
琉徳の動きは速い。
迷いのない踏み込みとともに、剣が斜めに閃く。
リーゼロッテはわずかに身を引き、紙一重で回避する。
しかし、次の一撃が間髪入れず襲いかかる。
空気を切り裂く鋭い音が、戦場の熱を増していく。
琉徳の剣は無駄がない。
その剣筋には、磨き抜かれた技術と、次期藩主としての矜持が宿っていた。
「ふふっ、お強いのですね」
「お前こそ、なかなかの剣捌きだ。女にしては上々……。反応速度も筋力も、悪くない」
刃を交えながら、琉徳が告げる。
その眼には余裕の色が滲んでいた。
「当然ですわ」
リーゼロッテは涼しい顔で応じる。
息一つ乱さぬまま、剣を構え直した。
彼女はタカシという男のチートスキル『加護付与』や『ステータス操作』によって、大幅に強化されている。
主に魔法関連のスキルを強化しているが、その恩恵は身体能力にも及ぶ。
剣技の経験こそ少ないものの、彼女の動きはそこらの令嬢とは一線を画していた。
だが、それでも――
「甘い! 甘いぞ!!」
琉徳の剣圧が一気に増す。
彼の剣筋は、研ぎ澄まされた刃のように鋭く、的確にリーゼロッテの防御を崩そうとする。
剣と剣がぶつかるたび、火花が散り、空気が震えた。
いくらチートスキルによって強化されたリーゼロッテであっても、本来は専門外である剣技。
その領域において、名家の嫡男である琉徳に勝つのは容易ではない。
「この程度か?」
琉徳の口元に、勝者の余裕を漂わせた笑みが浮かぶ。
彼の剣先がわずかに傾き、次の攻撃の準備に入る。
だが――
「……仕方ありませんわね。少しだけ、本気を出しましょうか」
リーゼロッテは静かに言い、手をかざした。
その動きに、空気が変わる。
周囲の温度が一瞬にして下がったかのような錯覚さえ覚える。
戦場を包んでいた剣戟の響きが、一瞬だけ静寂に飲まれた。
そして――
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