「ねえタカシ……。ちょっと来てくれる?」
「へ?」
俺は間抜けな声を出す。
今は……ええっと……。
そうだ、『赤き大牙』のみんなとホワイトタイガーを倒した日の夜だったな。
西の森からは出たが、ラーグの街まではまだ距離がある。
そのため、無理せず野営をしているところだった。
「ボーっとしていたの? い、いいから来てよ」
「……ああ。分かったよ、ユナ」
俺はEランク冒険者だ。
特に金が入り用なわけではないが、『異世界転移と言えば冒険者だろ』という安直な考えで冒険者になった。
右も左も分からない冒険者稼業。
チートスキル『ステータス操作』で『弓術』などを強化し、安全な距離から狩りをしていた。
今思えば、効率が悪くて危険な戦い方をしていたと思う。
そんな俺を見兼ねて導いてくれたのが、Dランクパーティ『赤き大牙』だ。
偶然、俺が弓で必死に魔物を討伐している姿を見かけたらしい。
ソロで活動している弓士のEランク冒険者など、そうそういないそうだ。
普通は前衛がいると……。
どうしてもソロでやるなら、剣士になるのが普通だと……。
確かにそうかもしれない。
そのときの俺は、弓の構え方が初心者丸出し。
魔物との距離も過剰に取っていた。
しかし、意外にもその狙いはそこそこ正確で、悪くない。
弓士としての才能を開花させる前に死んでは可哀想だと、せめて戦い方を教えてやろうとパーティに誘ってくれたのだ。
その後、俺は『赤き大牙』と共に依頼をこなしたり飲みに行ったりして、絆を深めていった。
レベルが上がってスキルポイントを得た俺は『弓術』や『視力強化』スキルをドンドン伸ばし、一足飛びに成長していく。
パーティとしての連携度も上がった。
そして今日。
赤き大牙のみで西の森を探索し、ホワイトタイガーに遭遇。
タンク役のジークが引き付けつつ、弓士の俺とユナが的確に援護し、最後は大剣使いのドレッドの一撃によって仕留めたのだ。
「な、何か用なのか?」
俺は天幕を出て、ユナと共に少し歩く。
そして、野営地から少し離れたところで彼女が立ち止まった。
「あの……その……ね」
ユナが恥ずかしそうに言う。
俺もドキドキしてきた。
これは……まさか!?
「その……わ、私ね? タカシのこと……」
ユナが何か言おうとする。
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「仲間として気に入っているの」
「えっ……?」
「あの……これからも、ずっとうちのパーティにいない? あなたとなら上手くやっていけそうな気がするわ」
「あ、あぁ……。……え?」
俺は呆けた声を出した。
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
期待していた告白ではなかったことに、図々しくも少しショックを受けてしまう。
だが……そうか。
パーティへの正式勧誘か。
これはこれで喜ばしいことだ。
今の俺は、『最低限の一人前になるまでという期限付きでDランクパーティに加入させてもらった、ただの臨時メンバー』である。
今日のホワイトタイガー戦を含めたこれまでの活躍を見て、正式にパーティに勧誘してくれるつもりになったのだろう。
俺は、素直に嬉しいと思った。
「ドレッドとジークもあなたのことは高く評価しているわ。前衛2人に弓士2人は、少しだけパーティバランスが悪いけど……。それを補って余りある才能が、あなたにはある。彼らも絶対に歓迎してくれるはずよ」
「うーん……」
俺は少し悩む。
だが、答えはすでに決まっていた。
「ありがとう。こちらとしても、本当にありがたい話だ。『赤き大牙』にずっといたい」
「そ、そう? 良かった!」
ユナが嬉しそうに笑う。
俺もつられて笑顔になった。
このパーティに加入するデメリットは、もちろんある。
特に、俺がこのまま急成長を続けた場合にチートスキル『ステータス操作』などの存在がバレかねないリスクは、無視できないだろう。
だが、今のところはデメリットを上回るメリットがある。
パーティを組むことで狩りの柔軟性や安全性が増す点。
先輩冒険者である3人からいろいろと教えてもらえる点。
何より、美少女弓士であるユナと共に生きていける点が魅力的だ。
ここは素直に厚意を受け取ろう。
「これからもよろしく頼む」
「ふふん。こちらこそ、よろしくね」
俺は右手を出す。
ユナが握手に応じた。
2人でしっかりと手を握る。
ユナの温もりを感じ、俺は彼女をとても愛おしく思ったのだった。
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