英霊ベテルギウスは無事に元の世界に帰っていった。
だが、彼が最初に召喚された際、余計な者たちがこの世界に紛れ込んでしまっていたようだ。
「我が紅剣アヴァロンのサビとなるがいい――だってよ」
「ひひっ……! 身の程知らずだねぇ」
「ぎへへ……! 俺たちの強さがわからねぇようだな」
3人の男たちが不快な声で笑う。
彼らは英霊のなりそこない。
いわば、亡霊のような存在だ。
「この世界で悪事を働くつもりなら、見逃すことはできない」
俺は紅剣アヴァロンを構えながら言った。
英霊のなりそこないと言っても、こいつらは十分に強そうだ。
野放しにすれば、一般民衆に多大な被害が出るだろう。
「なんだぁ? 正義の味方ごっこかぁ?」
「英雄の真似事でもする気かよ?」
「くくっ……! さっきの英霊サマと戦って消耗してんだろぉ? おとなしく殺されてくれや! ――ピャアッ!!」
男の一人が指先から光線を放つ。
俺はそれを難なくかわした。
「チッ! ちょこまかと動きやがるな」
「おい、落ち着けよ。次は俺の弓矢で貫いてやるぜ」
「待て待て。ここは俺の毒魔法でジワジワと追い込んで楽しみたい」
「……」
俺は黙って男たちを観察する。
3人はそれぞれ、光魔法、弓矢、毒魔法を使うらしい。
どうやら、生前はそれなりに名の知れた人物だったようだ。
ただ、所詮は英霊のなりそこないか。
どれも中途半端で大したことはなさそうだ。
「お喋りな奴らだな」
「ああん? なんか文句あるのか?」
「俺らを侮辱すると痛い目に遭うぜ」
「そうそう。お前みたいな雑魚は、すぐに死ぬことになる」
俺の言葉に、3人はイラついた様子を見せる。
「そうか。じゃあ、さっさとお前らの本気を見せてもらいたいのだが?」
「舐めやがって……。後悔させてやる!!」
「もう手加減はなしだ!!」
「死ね!!」
男どもが一斉に襲ってきた。
――が、その動きが急に止まる。
「なっ!? なんだ!?」
「体が……重い!! 下に落ちねぇようにするだけで精一杯だ!!」
「下は海水だぞ……! この霊体に海水はマズイ!!」
突然の事態に戸惑う男ども。
英霊や亡霊が受けている制約はよく知らなかったのだが、ベテルギウス戦で多少の推測はできていた。
やはり、海水に触れるのはマズイらしい。
ベテルギウスも水中の俺に追撃してこなかったしな。
このまま、奴らを瞬殺してやろう。
「――お前たちはすでに、死神に魅入られた。魅入られた者は、最期の足跡を残すことはない」
俺はゆっくりと詠唱を始める。
この状況下で特に有効そうな魔法だ。
「な、何をするつもりだ!?」
「まさか、俺たちを浄化しようっていうんじゃないだろうな!」
「ふざけんな!! 英霊サマと戦った直後だろ!? そんな余裕、あるはずが……」
亡霊たちが狼狽する。
確かに龍神ベテルギウスとの戦闘は激しいものだった。
しかし、格下を葬る余裕ぐらいはある。
まぁ、結構ギリギリだが……。
「――聖書にこうある。『汝の魂がすでに――この世にない証だ』!」
俺は詠唱を唱えつつ、紅剣アヴァロンを振り下ろす。
「【セレスティアル・グラビテーション】!!」
「「「ぐあああああっ!!!」」」
聖なる重力波が男どもを襲う。
海水を苦手とする彼らは、強化された重力に従って下に落ちるわけにはいかない。
それと同時に、亡霊である彼らは聖属性の攻撃を喰らうのもマズかった。
つまり、この状況下においては、この通り『聖と重力の複合魔法』が最も効果的だったというわけだ。
「ば、馬鹿な……。俺たちが……天に召されるだと……」
「ありえない……。ありえねえよ……。俺たちは永遠の牢獄に囚われて……」
「ああ……。妻と娘が見える……。俺も今からそこへ……」
亡霊どもは何とも言えない表情を浮かべて消滅していった。
英霊やそのなりそこないである彼らには、何かしらのデメリットでも付されていたのだろうか?
戦闘狂の龍神ベテルギウスは、純粋に戦いを楽しんでいるようだったが……。
ま、無事に成仏したっぽいし、ここはビシッと決めゼリフを言わせてもらおう。
「お前たちへの判決は――死刑だ」
俺はニヤリと笑って告げた。
まぁ、元から死んでいた連中なので、別に俺が殺したわけじゃないが……。
「――むっ!?」
俺は不意にバランスを崩す。
度重なる闘気やMPの消費により、貧血に似た症状が起きているのだ。
「くっ……」
俺は必死に意識を保つ。
ここで倒れたら、また面倒なことになってしまう。
というか、普通に死ぬ確率が高い。
なにせ、ここは陸からそれなりに離れた海上だからな。
人魚メルティーネのキスの恩恵も、どの程度まで効力が続くか不透明だ。
早く陸地に戻って、休まねば。
「その前に……リオンの回収を……。……あそこか……」
俺はふわふわ漂うリオンを発見する。
ベテルギウスとの戦闘後に放置してしまっていたが、まだ息がある。
とりあえずは一安心だ。
「……ん。うぐ……っ!!」
少しだけ気が抜けてしまったせいか、頭がくらっとくる。
リオンに治療魔法をかけてやりたいところだが、今は時間が惜しい。
とりあえず陸地へ……。
妻が待つ陸地へ……。
陸地へ……。
「あ……」
そこで、俺の視界がブラックアウトする。
そして――俺はそのまま気を失ったのだった。
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