タカシが桜花城の城下町で日々を過ごしている頃――
「ふふふ……。力が……力がみなぎってくる……!」
とある山奥で、1人の少女が狂気の笑みを浮かべていた。
ここは大和連邦北部『北烈地方』の『青雲藩』にある、『恐魂山』。
別名、『魂の眠る山』と呼ばれるこの山は、その名が示す通り死霊系の魔物が跋扈する危険な場所である。
だが、この少女にとっては、死霊系の魔物など恐るるに足りない。
なぜなら、彼女自身もゴーストだからだ。
「でも……寂しい……。一人は寂しい……。おにーさんたちに、早く会いたい……」
少女は呟く。
彼女の名は、『ユーファミア』。
通称は『ゆーちゃん』であり、タカシやミティと行動を共にしてきた幽霊の少女である。
「おにーさんたちは、今ごろ何してるのかな……? はぁ……」
ゆーちゃんは深いため息をつく。
タカシを始めとするミリオンズ構成員は、『共鳴水晶』という魔道具を持っている。
それがあれば、異国の地で離れ離れになってもいずれは合流できるだろう。
しかし、人外構成員であるゆーちゃんは、その魔道具を持っていない。
「しばらくはこの山で力を溜めるしかないか……。……おっと、ちょうど獲物が……」
ゆーちゃんは目を細める。
彼女の視線の先には、数人の男たちがいた。
この恐魂山は霊験あらたかで、野盗などは基本的に寄り付かない。
しかし、たまにこの山で修行をする武人や僧侶がいるのだ。
そんな者たちを、ゆーちゃんは襲っている。
「ふふ……。美味しそう……」
ゆーちゃんがこっそりと男たちに近付く。
彼女は幽霊であり、存在感が薄い。
そんな彼女がこっそり忍び寄れば――
「べろべろばあああぁぁ!!」
「うぉっ!? な、なんだ!?」
「ぎゃぁぁ!?」
「ひぃっ!? ゆ、幽霊だあああぁ!!!」
男たちは驚いて腰を抜かす。
しかし、ゆーちゃんは容赦しない。
「いただきまーす!」
「ぎゃぁぁ!!」
「た、助けてくれぇ!!」
男たちは恐怖の悲鳴を上げる。
直後、力なく倒れ込んだ。
ゆーちゃんによって魂を吸われ、絶命したのだろうか?
否。
「けぷっ……。ご馳走さまでした。死霊系の魔物がたくさんいるこの山は、私にとって楽園だね。……でも、ちょっと物足りないなぁ」
ゆーちゃんは腹を撫でる。
彼女が取り込んだのは、男たちの魂ではない。
彼らに取り憑いていた死霊である。
「さて……。このおじさんたち、この山に入るには力不足なんだよねぇ。放っておいたら、他の魔物に襲われちゃうかも。仕方ないから、私が操って下山させてあげようかな。――【霊縛之鎖】」
ゆーちゃんは魔法を使う。
すると、彼女の霊体から鎖のようなものが伸び、男たちの体に巻き付いた。
「「「ううぅ……」」」
男たちは気絶した状態のまま、うめき声をあげる。
この魔法の使用者に害意がない場合、支配された側に悪影響はない。
悪影響はないのだが……。
「それじゃあ、レッツゴー! 今の私は、守護霊・遊ちゃん! いっしょに、ふもとまで行くよ~」
「「「ううぅ……」」」
男たちはうめき声を上げながら歩き出す。
はっきり言って、見た目の印象はかなり悪い。
意識を失った状態でうめき声を上げながら歩く男たちと、その後ろを浮遊しながらついてくる幽霊。
それはまるでホラー映画やゾンビ映画のような光景だった。
ゆーちゃんたちは、そのまま山を下りていくのだが……
「う、うわあああ!?」
「なんだあれは!?」
「お、怨霊だ! 逃げろぉぉ!!!」
下山先で騒ぎが起きたのは、言うまでもない。
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