俺はエレナに『温泉旅館1か月無料券』を3枚プレゼントした。
そして、ルリイが俺の腕に抱きついてきた。
決して大きすぎない、柔らかな胸の感触が伝わってくる。
「お、おおぉっ!!」
「ふふふー。どうー?」
「あ、あの! 胸が! 当たってます!!」
「当ててるんだよー? ふふっ」
ルリイが可愛らしく小首を傾げ、いたずらっぽく笑う。
ゆるふわ系ののんびり屋さんと見せかけて……。
とんでもない小悪魔だ!
俺はそんな彼女にドギマギしながらも、なんとか言葉を絞り出した。
「じ、自分を大切しましょう! そういうのは好きな人とやるべきですよ!!」
「だいじょうぶー。タケシさんは好きってほどじゃないけど、嫌いでもない。だから問題ないよー」
「いや、問題はあるでしょう! ルリイさんは女の子なんですし!!」
「ふふふー。胸を押し当てたぐらいで、大げさすぎないー? 別に減るもんじゃないし、いいでしょー?」
まぁ、確かにそうか……?
胸を触らせるとか体の関係を持つとか、そういうレベルならいろいろと問題があるかもしれないが……。
今のはただのスキンシップ的な感じで、なんの問題もないような気もしてくる。
「こういうこと、他の人にもしているんですか……?」
俺は思わずそう聞いてしまう。
最も大切なことだろう。
誰彼構わずにこんなことをしているのならば、ちょっとどうかと思う。
まぁ、されて喜んでいる俺が言えた義理ではないのだが……。
「しないよー。こんなことをするのは、タケシさんだけだもんー。ねー、エレナちゃん?」
「……えぇ、そうね。ルリイは、誰彼構わずベタベタするような子ではないわ。むしろ、警戒心が強い方だと思う」
話を振られたエレナがそう答える。
警戒心が強い?
少し意外だ。
表の顔は、ゆるふわ系ののんびり屋さん。
裏の顔は、男を手玉にとる小悪魔。
そのどちらにおいても、警戒心が強そうには思えなかったが……。
「そうなんですか?」
「そうよ。ルリイは、相手の懐に入るのが上手いの。でも、必ず一線を引くわ」
「へぇ~」
エレナの言葉を聞きつつ、ルリイの方を見る。
彼女は俺の腕にしがみつきながらも、ニコニコと笑っていた。
その様子からは警戒心の欠片すら見えない。
(俺のことを信用しているのか? 彼女から見た俺は『Dランク冒険者タケシ』のままなはずだが……。『温泉旅館1か月無料券』のパワーで、少しは株が上がったということだろうか? それとも、何か他の要因が……?)
俺は思考を巡らせる。。
エレナの心を手に入れるには、将来的に俺の身分を明かす必要があるだろう。
しかし、ルリイは『Dランク冒険者タケシ』のままでもワンチャンありそうだ。
「ふふふー。じゃ、わたしからのお礼はここまでねー」
ルリイが俺から離れていく。
マシュマロのような柔肌の感触が消えていくのは名残惜しかった。
しかし、いつまでも堪能しているわけにもいかない。
「えっと……」
「じゃ、次はエレナちゃんからのお礼だねー」
「!?」
何か話題を変えようとした俺。
だが、ルリイからの爆弾発言により遮られてしまう。
「え? は? ……え?」
俺は混乱してしまった。
えっと……。
俺が渡した『温泉旅館1か月無料券』3枚のお礼は、ルリイから俺への腕ハグで終わりではなかったのか!?
まさか、その先があるとは……。
「ふふふー。エレナちゃんは義理堅いからねー。きっと、タケシさんにお返しをしてくれるはずー」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! どうして私まで……」
「え? エレナちゃん、お礼しないのー? 少なくとも金貨数枚分の価値がある券をもらっておいて、何も返さないのは人としてどうかと思うんだけどー?」
「そ、それは……」
エレナが言葉に詰まる。
確かに、義理堅いというルリイの評価は正しそうだな。
精神的にたくましい人なら、無料券をもらっておいて『ありがとう』の言葉だけで済ませる者もいるだろう。
まぁ、俺の正体は領主なので、優秀な冒険者がリンドウに来てくれるだけでもお礼になるのだが……。
ここはルリイの流れに乗っておくか。
上手くいけば、エレナからこの場でお礼をしてもらえる。
となれば、ここでルリイに同意する言葉を発して――。
いや、待てよ?
エレナの性格を考えると、もっといい言葉があるな。
「エレナさん! お礼なんて気にしないでください! 俺の気持ちですから! 偉大なる未来のAランク冒険者エレナ様に受け取ってもらえるだけでも、光栄なことです!!」
俺はエレナに向かって力強く言った。
すると、彼女の表情がギリッと険しいものに変わる。
(よしよし……! いいぞ……!!)
このまま畳みかける!!
こうして、俺はエレナへの攻勢を強めていくのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!