ブギー頭領の最後の足掻きは、タカシたちには通じなかった。
彼らは死なない程度にボコボコにされ、その場に放置された。
そして、タカシたちは隣の拠点へと向かっていった。
そのしばらく後。
ブギー頭領たちのもとにやってきた一団がいた。
「こ、これはいったい……?」
「ブギーさん! ジョーさん! みんな!」
ソフィアたち”光の乙女騎士団”だ。
彼女たち4人が、傷つき倒れているブギー頭領たちに駆け寄る。
「すまん……。嬢ちゃんたち」
「ブギーさん! よかった。意識はあるんだね。すぐに回復魔法を……」
ソフィアがそう言う。
彼女たち4人が、回復魔法の詠唱を始める。
「「「「……神の御業にてかの者たちを癒やし給え。エリアヒール」」」」
4人での合同魔法だ。
辺りを大きな癒やしの光が覆う。
ブギー頭領、ジョー副頭領、それに下っ腹戦闘員たちのキズが癒えていく。
「ぐむ……。助かった。ありがとう」
「ありがとうございます。ソフィアさん」
ブギー頭領とジョー副頭領がそうお礼を言う。
再び戦闘が可能なほどではないが、起き上がって無理なく会話できる程度までは回復した。
「いいよ。でも、いったい何があったの?」
「冒険者ギルドのやつらだ。この場所を嗅ぎつけてきやがった」
「……! 予想よりもずっと早い。わざと少しずれた位置を報告しておいたのに」
ソフィアがそう言う。
「本当にすまん。俺たちがついていながら情けねェ…!! ”オリハルコン”と”蒼穹の水晶”も奪われちまった」
「そう……。”蒼穹の水晶”が……」
「俺たちの夢もここまでだ。これ以上深入りすると、嬢ちゃんたちまでお尋ね者になっちまうぜ」
「ブギーさん……」
ソフィアが残念そうな顔をする。
「ここらが潮時だ。俺たちブギー盗掘団と、光の乙女騎士団は無関係。今なら、それを疑う者はいねえ……! 嬢ちゃんたちには未来がある。こんなところでつまらねえ汚名をかぶる必要はねえ」
「…………」
ギリッ。
ソフィアが悔しそうに奥歯を噛みしめる。
そして、言葉を絞り出す。
「……そんなわけにはいかない。僕たちには、ブギーさんたちと同じ夢がある。最後まで付き合うよ。ねえ? みんな」
ソフィアが”光の乙女騎士団”の面々に、そう問う。
「ええ。もちろんよ」
「そうだな」
「異論はないよ、リーダー」
”光の乙女騎士団”のメンバーが、そう答える。
そして、彼女たちがどこかへ向かう素振りを見せる。
「オイ……。嬢ちゃんたち、どこへ行く……!!! 余計なマネをするんじゃねえ。相手が誰だかわかって……」
ブギー頭領がそう言う。
彼は、タカシたち特別表彰者の情報をあらかじめある程度は掴んでいた。
そして、つい先ほど彼らの実力を体感させられたところだ。
やつらには手を出さないほうがいい。
同じく特別表彰者であるソフィアたちでも、勝ち目は薄いだろう。
ブギー頭領はソフィアたちを制止しようとする。
しかし。
「だいじょうぶ。ブギーさんたちはここで待ってて。傷も癒えたし、問題ないでしょ?」
「確かに、傷は癒えているが……」
「それに、隣の拠点にはナディアさんとパルムスさんがいる。彼女たちが引きつけてくれている間に、僕たちの”あの魔法”を発動させることができれば、勝てる可能性はあるよ。任せておいて!」
ソフィアがそう言う。
そして、彼女は他の3人とともに、タカシたちが向かったであろう隣の拠点に向けて駆け出した。
●●●
盗掘団の捕縛作戦の続きだ。
俺たち先遣隊は、ブギー頭領やジョー副頭領をあっさりと撃破することができた。
それに、オリハルコンと蒼穹の水晶という戦利品もある。
極めて順調だ。
次は、第ニの拠点を潰そう。
ナディアとパルムスとかいう幹部クラスがいるはずだ。
そいつらを倒せば、盗掘団の捕縛作戦は完了と言っていいだろう。
下っ端戦闘員たちが向かっていった方へ歩みを進める。
何やら、おぼろげながらも人の気配を感じる。
この方角で合っているはずだ。
俺、ミティ、アイリス、マクセル、ギルバート。
5人でずんずんと第ニの拠点に近づいていく。
そして。
「……! 待ち伏せか。ずいぶんと用意がいいことだ」
俺はそう言う。
第ニの拠点周りでは、盗掘団の面々が俺たちへの迎撃態勢を整えていた。
先頭には、幹部格らしき男女がいる。
年齢は40代くらいか。
顔が防具で隠れていて見えないので、なんとなくの雰囲気しかわからないが。
「お前がタカシか。ずいぶんと好き放題してくれたようだな」
「ブギー頭領の敵は討たせてもらうよ。覚悟してね」
幹部格の男女がそう言う。
盗掘団という無法集団の割には、それなりの仲間意識があるようだ。
このまま戦い始めてもいいが、1つだけ誤解を解いておこうか。
「まあ待て。ブギー頭領は、殺してはいないぞ。もちろん、捕縛する予定ではあるが」
俺はそう言う。
”頭領の敵だ! 刺し違えてでもタカシを殺す!”ぐらいのノリで来られると、たまったものではないからな。
ある程度は平和に行こう。
「あら、そうなの? でもいずれにせよ、戦う以外の選択肢はないわ。”あのとき”に命を救ってもらった恩を、返すときがきたわね。ねえ? パルムス」
「そうだな、ナディア。俺たちは”あのとき”に記憶を失ってから今まで、ブギー頭領と行動をともにしてきた。今や、頭領の夢は俺たちの夢でもある。このまま黙ってやられるわけにはいかん」
彼女たちがそう言う。
女性のほうがナディアで、男性のほうがパルムスという名前のようだ。
そして。
「……リッキー、来い!」
「ワンワンッ!」
パルムスの呼びかけに応え、犬が颯爽と現れた。
ファイティングドッグとは異なる種族のようだ。
結構大きい。
なかなかの貫禄がある。
どうやら、このパルムスのいう男の従魔らしい。
「ひゃっはー! ナディアの姉御が戦ってくださるぞ!」
「ひーはー! パルムスの兄貴、やっちまってくだせえ!」
「リッキー先生! 頼みますぜ!」
「バカ野郎! オレたちも加勢するんだよ!」
下っ端戦闘員たちがそう言う。
ナディアとパルムス、それに犬のリッキーが主戦力。
そこに下っ端戦闘員も加わり、全員で俺たちを迎え撃つ心づもりか。
ナディアとパルムスは、ブギー頭領や下っ端戦闘員たちからの信頼が厚い。
おそらく、確かな戦闘能力を持つだろう。
もしかすると、戦闘能力だけならブギー頭領やジョー副頭領以上の可能性もある。
気を引き締めて戦うことにしよう。
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