「リマ、ここらで大丈夫だ。下ろしてくれ」
「ですが……」
リマは心配そうに言う。
心配性だな。
いや、俺の身を案じてくれているのだろうが……。
「さすがに、お姫様抱っこされたままだと注目の的になってしまう」
「あ……」
リマは恥ずかしそうに顔を赤らめる。
宴会で酔っ払ってお姫様抱っこされている男など、なかなかお目にかかれないだろうからな。
しかも、その相手は少女だ。
好奇の視線を向けられることは間違いない。
さっきまでいたバルコニーからパーティー会場の端っこぐらいまでならまだしも、会場の真ん中をお姫様抱っこされながら移動するのはさすがに避けたい。
「……分かりました」
リマは納得してくれたようだ。
彼女はゆっくりと俺を下ろす。
「運んでくれてありがとうな。この少しの間だけでも、酔いがマシになった気がするよ」
「それなら良かったです。ですが、くれぐれもご無理はなさらないよう……」
「分かってるって。これからリリアンに治療魔法をかけてもらうつもりだ。ええっと、どのあたりにいるのか……」
「リリアンさんは、あそこの方で料理を召し上がられているようです」
「おお、ありがとう。じゃ、行ってくるよ。リマは仕事があるのだったか? もし暇になったら、またいっしょに飲もう」
「はい。楽しみにしていますね」
リマは一礼すると、その場を後にした。
俺は彼女に手を振ってから、リリアンのもとへと向かう。
「おっ! ナイトメア・ナイト殿だ!」
「本当だ! せっかくだし、サインを……」
「バカ、やめとけ。迷惑になるだろう」
「英雄を称えるパーティーにケチをつけるつもりか?」
「それもそうか……。今回は諦めよう」
パーティーの参加者たちがそんなことを話している。
今回のパーティー会場は広く、参加者はとても多い。
当初の開催目的は、『人魚族の恩人であるナイトメア・ナイトに感謝を伝える』だったそうだが、それは俺が固辞して取り下げてもらった。
主役として注目を集めてしまうと、楽しめるものも楽しめなくなるからな。
こういうのは、やや隅っこの方で静かに楽しむぐらいがちょうどいい。
俺はすみっコで暮らすのだ。
チートスキルを与えられても、本質は小市民のままである。
「ちょっと失礼……」
俺は右手でチョップする動作をしつつ、彼らとすれ違っていく。
すんなりと人混みを通してもらったが、中には名残惜しそうにしている者たちもいる。
「ああ、握手してもらいたかった……」
「俺もだ。握手は無理でも、せめて一言くらいは……」
俺は苦笑する。
そこまで感謝されるほど大したことをしたわけではないと思うのだが。
……いや、よく考えれば大したことか。
クーデターを鎮圧し、エリオットを浄化したのは俺だもんな。
他にも、大なり小なりの功績がある。
彼らの感謝は嬉しい。
(あとで時間をつくり、挨拶でもしておくか)
俺はそんなことを考えつつ、パーティー会場内を移動していく。
そして、ようやくリリアンのいる場所にたどり着いたのだった。
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