モニカとニムに秘密を打ち明けた翌日。
ラビット亭にやってきた。
まだ開店前だ。
人は俺たちしかいない。
ダリウスに話しかける良いタイミングだ。
「ダリウスさん。少しよろしいですか?」
「ん? どうした? タカシ君」
「モニカさんを私にください!」
……ん?
少し言葉選びを間違えたかもしれない。
「ほう! モニカもやっといい男を見つけたか! 心配していたんだ!」
「お父さん! もう!」
うれしそうなダリウスに対して、モニカは少し顔が赤くなっている。
「3人目というのがちと気にくわんが、まあ悪くはないか。将来有望な治療魔法師さんだしな!」
ダリウスがそう言う。
「私の本業は冒険者です。こちらのミティ、アイリスとともに3人で活動しています」
「ん? そうか。治療魔法師ではないのだな」
「はい。そして、モニカさんにもパーティに加入していただきたいのです。先ほどの言葉はそういう意味です」
「なんだ、結婚ではないのか」
ダリウスが少し残念そうな顔をする。
「……それにしても、冒険者だと? モニカにできるのか? 格闘の心得は多少は教えているが、ほとんど素人だぞ?」
モニカは格闘術レベル1を所持している。
ダリウスが教えていたようだ。
「問題ありません。私の見立てでは、モニカさんには才能があります」
厳密には、才能ではないけどな。
ステータス操作というチートの前では、才能など誤差の範囲でしかない。
大事なのは本人の意欲だ。
「ふむ。才能か。……モニカはどう考えているのだ?」
ダリウスがモニカにそう尋ねる。
「才能があるかはわからないけど。やるだけやってみたいな。店のことは気になるけど」
「そうか。モニカがそう言うのであれば、無理に止める気はない。店のことはお父さんに任せなさい。……しかし、危険はないのか?」
ダリウスがそう心配する。
「しばらくはこの街の近郊で活動します。無理はしません」
「それならいいか。まずはやってみるといい。挫けそうになったら、いつでもやめていいんだぞ」
ダリウスがモニカにそう言う。
「わかった。ありがとう、お父さん」
モニカがそうお礼を言う。
「ちなみに、冒険者としてやっていけそうだと判断したら、遠出する機会もあるんだろう?」
「そうですね」
隊商の護衛依頼でラーグの街を離れることもあるだろう。
もしくは、ミッションにより指示される可能性もある。
依頼やミッションを別としても、レベリングや新たな仲間を求めて他の街へ旅していくつもりだ。
「どうせなら、食の都にも行ってこい。料理人として、いろいろと学ぶことも多いだろう」
ダリウスがモニカにそう言う。
食の都グランツ。
マヨネーズが作られた街だ。
アドルフの兄貴やレオさんも、観光地としてオススメしていた。
「そうだね。私も行ってみたいとは思っていたよ。料理人の憧れだよねえ」
モニカがそう言う。
「食の都か。俺も噂で少し聞いたことがある街だな。どんな街なんだ?」
「Sランク冒険者の”食王”グランさんが治める都市国家だよ。全世界の良質な料理が食べられるらしい」
モニカがそう説明する。
「へえ。行ってみたいな」
「おいしい肉料理もあるのでしょうね。私も行ってみたいです」
「ボクも行きたいな。近隣の街には行ったことがあるけど、グランツには行ったことないし」
「い、いいですね」
モニカ、俺、ミティ、アイリス、ニム。
5人の意見が一致した。
「ここからだとちょっと遠いし、まあゆくゆくだね」
アイリスがそう言う。
俺は地理関係はよく知らないが、中央大陸から来たアイリスがそう言うならそうなのだろう。
「……それはそうと、モニカがいなくなると店の人手が足りなくなるな。誰か雇うか……。ニムちゃん、どうだ?」
ダリウスがそうニムを誘う。
「え、えっと。ごめんなさい」
ニムが困り顔をして、ダリウスの誘いを断る。
「ニムちゃんにも、パーティへの加入を打診しているのです。マムさんへの相談はこれからですが」
「なにい!? 正気か? こんな小さな子どもを」
ダリウスが驚く。
そりゃそういう反応になるか。
ニムは10歳と少し。
冒険者ギルドの規約をギリギリ満たしてはいるが。
「ニムちゃんにも才能があるのです」
とりあえずそう言うしかない。
「にわかには信じられんが……。まあ余所の子の進路にあれこれ口を出すのも無粋か。マムさんの判断に任せよう」
ダリウスは困惑した顔のままだが、とりあえずは引き下がってくれた。
「それで、マムさんのところにはいつ行くんだ?」
「今から行こうかと思っています」
「ふむ。心配だし俺も付いていこう。モニカも同時に加入するわけだし、無関係というわけでもない」
「わかりました。ニムもそれで問題ないか?」
「は、はい。だいじょうぶです」
ニムがそう返事をする。
さっそくマムさんのところへ向かうことになった。
俺、ミティ、アイリス。
モニカ、ニム、ダリウス。
6人でニムの家に向かう。
●●●
ニムの家に着いた。
「こんにちは。マムさん」
「あらあら。こんにちは。タカシさんにダリウスさん、それにみなさん。何かご用かしら?」
マムが出迎えてくれる。
「大切な話があります。ニムさんを私にください!」
……ん?
また少し言葉選びを間違えたかもしれない。
なんか、毎回間違えている気がする。
気のせいか?
「む、娘は結婚にはまだ早いと思います。治療していただいたことには感謝していますが……」
マムが動揺した顔でそう答える。
「し、失礼しました。少し言葉選びを間違えました。……ニムさんに、冒険者として私たちのパーティへ加わって欲しいという意味です」
「……ニムが冒険者に? ご冗談でしょうか?」
マムがそう聞き返してくる。
まあ、10歳と少しの女の子を冒険者として勧誘してるわけだし、そういう反応になるよな。
「ニムさんに才能の片鱗を感じたのです。しばらくこの街の近郊で活動し、見極めさせていただきたいと思っています」
モニカのときと同じような説明をする。
実際には、才能はあまり重要ではないが。
ステータス操作というチートの前では、才能など誤差の範囲でしかない。
大事なのは本人の意欲である。
「才能ですか……。ニムに冒険者が務まるかしら? 根は強い子だけど、まだ小さいのに」
マムが心配顔でそう言う。
完全拒否というわけでもなさそうだ。
「もちろん、慣れないうちは全力でサポートします。本人もやる気です」
「そうなの? ニム」
「う、うん。がんばってみる」
ニムがそう言い、意気込む。
「じゃあ、少しの間のお試しということでなら……。畑仕事はママがしておくから気にしないでね、ニム。……でも、あんまり危険なところへは行かせないでくださいね」
マムの了承をもらえた。
「もちろんです。ちなみに、モニカさんにも合わせて加入してもらいます。しばらくは2人のペースに合わせて活動します」
「まあ、モニカちゃんも?」
マムが驚いた顔でモニカを見る。
「うん。ニムちゃんとがんばるよ」
「ああ、それでモニカちゃんとダリウスさんも来ていらしたのね。ちょっと不思議には思っていました」
マムがそう言う。
「モニカ。お前のほうが年上なんだから、ニムちゃんを支えてやるんだぞ」
今まで黙って聞いていたダリウスが、そう言う。
「わかってるよ。ニムちゃんはもうすぐ私の妹になるかもしれないし、なおさらちゃんと見ておくよ」
モニカがいたずら顔でそう言う。
「妹……? こらっ。大人をからかうなっ」
ダリウスがそう言う。
少し怒っているような口調ではあるが、表情はそうでもない。
顔を赤くし、照れたような感じだ。
マムも同じような表情だ。
つまり、そういうことか。
お熱いことだ。
祝福の準備をしておく必要があるかもしれない。
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