俺はリッカと戦闘中だ。
こちらの火魔法や水魔法は、なかなか相手に通じない。
しかし逆に、向こうの攻撃も俺にとってさほど痛手にはなっていない。
治療魔法『リジェネレーション』や土魔法『硬化』で対処できている。
このまま長期戦になるかとも思ったが、リッカは新たな技を繰り出した。
確か『神罰執行・神の雷鳴』とか言っていたか。
空がピカッと光り、直後ゴロゴロと音が鳴り響いている。
「天候操作……だと? お前、一体どこまで……」
「これで終わりじゃないです。――【神霊纏装・アーティルドラ】」
「うおっ!」
リッカが詠唱を終えると同時に、彼女の身体から眩い光が溢れ出す。
あまりの輝きに目がくらむ。
しばらくして視力が回復した時には、リッカの姿に変化が生じていた。
「これが僕様ちゃんの奥の手です。さぁ、ここからが本番です」
「……」
リッカが雷光のようなオーラを纏っている。
これはモニカの『術式纏装・雷天霹靂』、あるいはネルエラ陛下の特殊武技にも似た雰囲気を感じる。
おそらく、彼女特有の武技なのだろう。
……雷系統の使い手、多くね?
「行くです!」
「くっ……」
リッカの動きが速い。
目で追えないほどではないが、先程までのスピードとは違う。
明らかにレベルアップしている。
「――【ファイアー・レーザー】!」
俺は炎の光線をリッカに向けて放つ。
リッカはその攻撃に対して、拳を振り上げた。
「――【神の雷槌】」
「なにっ!?」
リッカの拳に、雷の塊のようなものが出現する。
それが俺の放ったファイアー・レーザーを飲み込みながら、俺へと向かってくる。
俺は咄嵯に土の壁を作って防御を試みた。
「無駄です」
「くっ!」
壁は一瞬にして破壊され、俺は衝撃を受けて吹っ飛ぶ。
背中から地面に叩きつけられた。
「がはっ!?」
息ができない。
肺の中の空気が一気に押し出され、呼吸困難に陥ってしまった。
視界の端に、アイリスとミティが映る。
彼女たちが俺の名を呼んでいる気がするが、上手く聞き取れない。
リッカがゆっくりと近づいてきた。
「君はよくやったです。でも、僕様ちゃんの勝ちです」
「くそっ……。Bランク冒険者にして男爵であるこの俺が……」
「ふん。やはり、そのことで自惚れていたですか」
「なんだと?」
「多少名を上げたところで……ここは世界最弱の『新大陸』です。君は井の中の蛙に過ぎないということです」
「……」
確かに、俺は調子に乗っていたかもしれない。
加護の対象者を増やすことに重点を置き、自身の鍛錬が疎かになっていた。
「新大陸の人は『纏装術』を使えないです。だから弱い。僕様ちゃんに勝てるはずがないです」
「……そうかな? 俺はまだ負けたわけじゃない」
「強がりはやめるです。神の力の一端を身に宿した僕様ちゃんに、君はもう敵わないです」
「やってみないとわからない」
俺は立ち上がり、再びリッカに向かっていく。
「しつこいです! ――【神の雷槌】!」
「ぬおぉおおおっ!!」
俺は両手に魔力を込めて、リッカの攻撃を防ぐ。
そしてそのまま、武技を発動した。
「【術式纏装・獄炎滅心】!!」
「なにっ!?」
リッカが驚いた声を出す。
俺はさらに魔力を練り上げ、全身に纏うようにイメージする。
「そんなバカな……。なぜ、どうして……。こんなこと、あり得ないです」
「俺の纏装術はどうだ? 中央大陸で開発された最新技術……。俺が使えるとは思っていなかったか?」
「まさか『纏装術』の使い手が既にいたとは……」
「そうだ。まだこの大陸には十分に浸透していないことは事実。しかし、使い手がまったくのゼロというわけではない」
ミリオンズ内だけで言っても、俺、モニカ、ユナ、マリアが使える。
水魔法の名門ラスターレイン伯爵家においても、当主のリールバッハが素で使える他、その以外の面々も魔石の補助さえあれば使える。
さらに、一部の上級冒険者が使えるという情報も聞いたことがある。
中央大陸で開発されたばかりの新技術とはいえ、有用な情報というのは広まるのも早いものだ。
「お前は俺を甘く見過ぎていた。だが、これで形勢逆転だ」
「くぅ……。しかし、形勢逆転とは言い過ぎです。僕様ちゃんの力には、まだまだ余裕があるです」
「そうかい。じゃあ、遠慮なく行かせてもらうぜ!」
「来いです!」
俺とリッカの戦闘が激しさを増していく。
お互いに魔法を使い、剣とレイピアでの攻防を交える。
リッカの武技は強力だ。
しかし俺だって負けてはいない。こうしてリッカと互角に渡り合っている。
「――【神の雷槌】!」
「【アース・ウォール】!」
雷の攻撃に対し、土の壁で対応する。
土の壁が破壊されるが、俺はその間に距離を取る。
「【ヒール】」
俺は自分に治療魔法を掛けつつ、次の魔法を発動させる。
「――【ウッドバインド】!」
リッカの足元に植物魔法を発動する。
彼女は飛び上がって回避したが、それは想定済みだ。
「――【エアバースト】」
空中にいるリッカに風魔法をぶつける。
彼女が空中でバランスを崩す。
「しまっ……」
「もらったぁあああっ!! ――【炎魔煉獄覇】!!!」
「ぐうっ……」
俺は浮かび上がるリッカに追撃をかける。
リッカの身体を灼熱の業火が包み込む。
「ぐあああっ……」
リッカが悲鳴を上げる。
俺はすかさず彼女に近づき、その身体を殴り飛ばした。
「――【フレアドライブ】!!!」
「ぎゃんっ!!」
リッカが地面を転がっていく。
――少しやり過ぎたか?
強敵とはいえ、外見は幼女。
手加減をした方が良かったかもしれない。
俺はそんなことを思ったのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!