ディルム子爵領までやってきた。
俺、ユナ、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。
アルカ。
それに、村の戦士たちもいっしょだ。
街から1キロほど離れたところから、街の様子をうかがう。
街の周りには外壁がある。
侵入するには門をくぐる必要がある。
もしくは、壁を登るかだが……。
「さて。どうやって街に入ろうか?」
「うーん。警備の人が結構いるねえ」
「そ、そうですね。こっそりと入るのは難しそうです」
俺の言葉に、モニカとニムがそう答える。
門の周りには10人以上の警備兵がいる。
なかなかの警戒態勢だ。
俺たちの攻勢が予測されていたのかもしれない。
「正面突破でいいんじゃないかな。ボクたちは、やましいことをしているわけじゃないしね」
「そうですね! 私たちの力を見せつけてやりましょう。むんっ!」
アイリスとミティがそう言う。
「ふふん。気が合うわね。私たちもそう思っていたところよ。ねえ? みんな」
「「「おうともよ!」」」
ユナの言葉に、村の戦士たちがそう答える。
ずいぶんと勇ましい。
彼らがそう言うのであれば、その方向性でいいか。
他に良さそうな方法もないし。
「ふふん。じゃあ、最初から全力でいくわよ!」
ユナ、それに村の戦士たちが集中した顔つきになる。
「「「赤狼族獣化!」」」
村の戦士たちの髪が赤に変色していく。
さらに、耳が狼っぽく変容し、牙が生えてきた。
「ふう! 暑くなってきたぜ!」
「よっしゃあ! 脱いでから攻め込むぜ!」
村の戦士たち、そしてユナが服を脱いでいく。
彼らは炎の精霊の加護を受けているため、獣化したら体温が上がると言っていた。
その影響だろう。
鎧なども付けずに半裸となった。
防御力は心もとないが、機動力は高まる。
それに、彼らの鍛え抜かれた体であれば、鎧なしでもそれなりの防御力はあるだろう。
「ふふん。いくわよ! 総員、突撃ぃ!」
「「「うおおおおお!」」」
ユナの指示のもと、街の出入り口に近づいていく。
「き、来たぞ! ウォルフ村のやつらだ!」
「落ち着け! まずは迫撃砲の準備だ!」
門の警備兵たちがこちらに気づく。
あの口ぶりだと、やはり俺たちの攻勢は予測されていたようだ。
警備兵の上官らしき人の指示のもと、大砲のようなものがこちらに向けられる。
あれから砲弾が飛んでくるとすると、なかなかヤバそうだ。
「ふふん。各自、砲弾を警戒して!」
ユナがそう言う。
「まあ待て。俺たちに任せておけ」
「わ、わたしの土魔法でがんばって防いでみます」
「私もがんばります!」
俺、ニム、ミティがそう言う。
俺たちの実力であれば、砲弾も何とかできるだろう。
「迫撃砲用意! 撃てぇ!」
ドン!
上官の指示のもと、砲弾が発射される。
それほど大きくはない砲弾だ。
直径数十センチといったところか。
視力強化を取得している俺なら回避することは造作もない。
しかし、そうすると後ろの戦士たちに負傷者が出るかもしれない。
彼らは獣化していて身体能力が高まっているので、無用な心配かもしれないが。
ここは万全を期そう。
「……焼き尽くせ。バーンアウト!」
俺はオリジナルの火魔法を発動させる。
火力がかなり強い魔法だ。
その代わり、対象は無生物に限定される。
生物に対して発動した場合は、火力が大幅に弱くなる。
もともとは、射掛けられた矢などを焼き尽くして無効化する意図で開発した。
もう10か月ほど前のことになる。
出番がないときもコツコツと練習は続けていた。
ようやく、日の目を見たというわけだ。
ジュッ。
砲弾が俺の火魔法により熱せられて、蒸発する。
直径数十センチの金属の塊を一瞬で蒸発させるほどの火力。
やはり、とんでもない火力だ。
これで魔物や敵対的な人物相手にも使えれば非常に強力なのだが、そうはいかない。
対象を非生物に限定する制約のもとで成立している魔法だからな。
「なっ!? バカな。砲弾が……消えただと!?」
一般兵が驚きに目を見開く。
ふふふ。
俺の実力にひれ伏したまえ。
「うろたえるな! 次弾を発射せよ!」
ドン!
上官の指示のもと、砲弾が発射される。
「……ロックアーマー」
ガシッ!
ニムが、ロックアーマーをまとった状態で砲弾を受け止めた。
「わ、わたしのロックアーマーの前では、砲弾など無意味ですね」
ニムがそう言う。
彼女の防御力はミリオンズでも随一だ。
非常に頼りになる。
「う、嘘だろ!? なんだあの土魔法の練度は!」
「うろたえるな! 三度目の正直だ! 次弾を放て!」
ドン!
上官の指示のもと、砲弾が発射される。
やれやれ。
学ばない男だ。
二度あることは三度あるという言葉を知らないのかね。
「ここは私にお任せを」
ミティがそう言う。
何をするつもりだろう。
彼女がこう言うぐらいだから、何らかの対砲弾用の技があるのだろうが。
ミティがハンマーを振りかぶる。
砲弾のタイミングに合わせて、ハンマーをフルスイングする。
「ビッグ・ホームラン!」
打った!
強烈なライナーが敵陣を襲う!
「うわあああ!」
「退避! 退避ぃ!」
「伏せろーー!」
敵兵たちはてんやわんやだ。
そりゃそうだ。
撃った砲弾が自分たちに返ってきたわけだからな。
ドゴーン!
ミティが打ち返した砲弾は、門に直撃した。
門が半壊し、街への入口が開かれる。
あそこから入れそうだ。
もちろん、目の前の敵兵たちを何とかしてからだが。
「くっ! 迫撃砲の使用は中止だ! こいつらに迫撃砲は効かねえ!」
敵の司令官が慌ててそう言う。
ようやく、学習したか。
「Cランク冒険者と聞いていたが……。Bランク級の実力者がいるようだ! 総員、心してかかれ!」
「「「はっ!」」」
上官の指示のもと、敵兵たちが戦闘の構えをとる。
ここからが本番だ。
無事にここを突破し、ディルム子爵に囚われているシトニとクトナを救出できるのか。
気を引き締めていこう。
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