ミティはレティシアを締め上げつつ、隊長室の奥――つまり俺の方に向かってきている。
イリーナはそんなミティを止めようとしていたのだが、そこで部屋の外から声が聞こえてきた。
「この声は……騎士のみんなだねっ! ふふふ。ミティちゃんも暴走もここまでだよ。いくら君でも、みんなでかかれば……」
「ずいぶんと余裕ぶっていますが……。よいのですか?」
「なにが?」
「そのようなハレンチな姿を男性騎士たちに見られても」
「え? あっ、しまったあああぁ!!」
イリーナは自分の身体を見下ろす。
そして顔を真っ赤にした。
結構初心なところもあるじゃないか。
俺やレティシアと楽しんでいたときには、ずいぶんと余裕を持っていたのに。
「ふふふ。そうだ、いいことを思いつきましたよ」
ミティが邪悪な笑みを浮かべる。
「な、なにをする気なの?」
「この女をあの騎士たちの真ん中にでも放り投げてやりましょうか。これでも彼らの上官なのでしょう? ふふ、さぞかし人気者になれるでしょう」
「ひ、ひいいぃっ!?」
「や、やめたげてよぉ!」
ミティ……。
とんでもないことを思いつきやがる。
レティシア中隊長は俺から見れば格下だが、一般騎士たちから見れば上官にあたる。
普段の訓練では、彼女の厳しい指導で鍛えられているはずだ。
その尊敬すべき上司が、全裸に近い格好をした状態で部下たちの前に現れたら――。
そりゃあもう大変なことになるだろう。
「や、やめなさい!! 本当にそれやるつもりなの!?」
「えぇ。そうします」
「そ、そんなことしたら、ミティちゃんだってタダじゃ済まないよっ!?」
「問題ありません。全てはタカシ様のためにすることです」
ミティの表情には一点の曇りもない。
俺のことを想ってくれているのは嬉しいけど……。
こんな形で発揮しなくても……。
「くっ……」
イリーナが再び俺をチラリと見る。
そんな目で見られても、まだ拘束は解けていないぞ。
……おっ。
右足と左腕の拘束が解けた。
あとは、右腕と首だけだな。
しかし、まだ少しの時間は掛かりそうだ。
仕方ない。
レティシアに、全裸のまま男性騎士たちのど真ん中に投げ込まれるという恥辱を味合わせるわけにはいかない。
ここは全てをミティに話して、怒られるしかないだろう。
俺はそう思ったのだが――。
「時間切れです。では、さようなら」
ポイッ。
ミティがレティシアを空高く投げ上げた。
それは大きく弧を描き、隊長室の外にいる騎士たちの方へと飛んでいったようだ。
「うわああぁぁぁぁん! 助けてええぇ!!」
レティシアが悲鳴を上げる。
単純に、空高く投げられて怖いというのもあるだろう。
しかしそれ以上の問題がある。
それは――
「お、おい! あれを見てみろ!」
「女性が空を飛んでいる……?」
「服を着ていないんじゃないか?」
「い、いかん! このままではケガをしてしまうぞ!」
「ここは俺が受け止めてやろう!」
「いいや、俺に任せておけ!」
「何を! 俺の方が先に手を上げていたんだ!」
「なんだと? 貴様こそ後から出てきた癖に!!」
「お前ら、喧嘩している場合じゃないだろ!」
「そうだ! 今は女性を助けることが先決だ!」
「「「うおおぉぉ!!」」」
全裸の女性が空から落ちてくるという状況に、男性騎士たちは大興奮だった。
まぁ、中には本当に心配している人もいるのだろうし、興奮と心配が半々ぐらいの者もいるのだろうが。
いくら興奮状態とはいえ、彼らは騎士だ。
救出後に女性を襲うなんてことはしないだろう。
……いや、本当に大丈夫か?
あれが無力で無関係の女性なら、おそらくは問題なかっただろうが……。
彼女は騎士たちの上司でもあるレティシア中隊長なんだよな。
そこを考えると、マズい事態になる可能性も否定はできない。
(ふんっ!)
俺を拘束していた首輪も取れた。
残ったのは、右腕を拘束している鎖だけだ。
これは途中で太い鎖に変えてもらったから、特に頑丈なんだよな。
レティシアが騎士たちのど真ん中に落下するまでに、間に合わせることができるか……?
「【クロック・アップ】!!」
イリーナが時魔法を発動させる。
あれは、自分の時間を加速させる魔法だ。
「はあああぁっ!」
彼女が超高速で隊長室から飛び出ていった。
そして一瞬で一般騎士たちの元にたどり着くと――
「ごめんね、みんな」
「へ?」
「あ……」
「ぐえっ!」
イリーナは次々と男性騎士たちを気絶させていく。
そうして全滅させたあと、彼女は落ちてきたレティシアをキャッチした。
「レティシアちゃん、大丈夫?」
「あぅ……。ありがとうございます」
レティシアの貞操は無事に守られた。
上空にいるときの彼女の全裸は見られているのだが、遠目だったし正体がレティシアだということは一般騎士たちにバレていないだろう。
いやあ、良かった良かった。
これで一件落着だな。
「はぁ、はぁ……」
「イリーナ大隊長?」
「あ、ごめんね。魔法の使いすぎで、ちょっと疲れちゃって……」
「それはいけません。隊長室でゆっくりとお休みになられてください」
イリーナとレティシアがお互いに肩を貸すような形で部屋に戻ってくる。
「しぶとい奴らですね……。もう一度投げられたいですか?」
そんな彼女たちの前に、ミティが立ちはだかったのだった。
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