奴隷商館にミティと2人でやって来た。
有望な奴隷を購入するためだ。
そして、店長に希望条件を伝えた。
彼はこの応接室から出て、別室にて準備を進めてくれている。
しばらく待っていると、彼が部屋に戻ってきた。
「お待たせしました。奴隷の準備が整いましたので、こちらへお越しください」
店長の案内に従い、ミティとともに別の部屋に向かう。
部屋に入る。
中には、20人ほどの奴隷が並んでいた。
俺の希望通り、特に厳選せずに用意してくれたようだ。
目が濁っている猫獣人の少女。
どこにでもいそうな普通の女性。
どこにでもいそうな普通の男性。
引き締まった体をしている女性。
大柄の男性。
片目に眼帯をつけている幼い少女。
その他、いろいろな奴隷が並んでいる。
「いかがでしょうか? 気になる者がいましたら、ご説明をさせていただきますが」
「そうだな。……この娘はどういった経歴だったかな? 1年ほど前にも見た気がするのだが」
俺は、目が濁っている猫獣人の少女を見てそう言う。
かつて俺とミティがここで対面したときに、彼女も見かけた記憶がある。
俺に対する忠義度を改めて確認してみる。
5だ。
初対面の人だと、10ぐらいの人が多い。
忠義度5は、やや低めの数値だ。
彼女の俺に対する印象は、現時点では少し悪いということになる。
とはいえ、敵対的というほどでもないだろうが。
「ああ、この娘ですか。食い逃げやスリの常習犯で、犯罪奴隷となった者です。タカシ様がミティ様を購入されたしばらく後に、とある冒険者パーティに一度は購入されました。しかし、しばらくして返品されてしまったのです」
「返品? 理由は何だ?」
パーティ内でも、犯罪まがいのことをしでかしたのだろうか。
「はっ。あたいは、あたいより強い者にしか従わない。弱い男には興味がない」
ずっと黙っていた少女が、そう言う。
「……と、こんな調子でして。このクリスティは武闘派の部族の育ちらしく、戦闘能力に秀でているのです。しかし一方で、自分よりも弱い者には従わないという気質を持ちます」
「なるほど。それは厄介そうだ。強さを見せつける必要があるわけか」
「その通りでございます。彼女を購入した冒険者パーティは、慎重で堅実な戦闘スタイルには定評がありましたが、各人の個別の武勇には欠けておりました。彼女を従わせることができず、やむなく返品となったのです」
ふむ。
少なくとも、そこらの冒険者よりもクリスティのほうが強いわけか。
なかなか有望だ。
しかし、今の俺よりも強いということはないだろう。
ここは俺の戦闘能力を見せつけて、ベタぼれしてもらうことにしようかな。
ただ、1年ほど前の時点では俺がクリスティを従わせることは難しかったかもしれない。
やはり、あのときにミティを選んだのは大正解である。
ミティを見て感じた運命は本物だ。
「(タカシ様。私は彼女と少しだけ話したことがあります。なかなかの戦闘経験があるようでしたが、今のタカシ様であれば一蹴できると思います)」
ミティがそう耳打ちしてくる。
有益な情報をありがとう。
「クリスティといったか。もし俺がお前に勝てたら、俺に従ってくれるのか? 俺はこれでも武勇を評価されて騎士爵を授かるぐらいの実力はある」
「はっ。こんなところにいても、タカシとかいう名前はチラホラ耳に入ってくる。お前が噂通りの実力を見せてくれれば、従ってやるよ」
クリスティがそう言う。
「よし。では、まずはこの娘をもらうことにしよう。他には……」
俺は他の奴隷を見回す。
「こちらの娘はどういった事情があるのだ? 見たところ、ごく普通の娘のようだが」
「そちらのハンナは、北方の村で口減らしとして売られたのです。特別な技能などはありませんが、素行などにまったく問題はありません。雑用係や夜伽の相手としては、十分にオススメできます」
口減らしか。
このラーグの街近郊は、比較的食料に余裕がある。
やや困窮していたニムや、孤児院育ちのロロですら特に痩せぎすというわけではなかった。
温暖かつ雨がそこそこ降る気候も関係しているだろう。
しかし、やはり地方によっては食べるものに困っている者たちもいるということか。
食料に余裕のある地方から輸送すればいいのではと思うが、そう簡単な話でもない。
この世界での主な移動手段は、馬車や徒歩だ。
馬車で輸送する場合は、それなりに経費や時間がかかるだろう。
輸送中に魔物や盗賊に襲われるリスクもある。
サザリアナ王国には、お抱えの転移魔法の使い手が存在する。
転移魔法で食料を輸送するのも1つの選択肢だ。
しかし、転移魔法の使い手は希少である。
サザリアナ王国が抱えているのは、せいぜい数人程度だろう。
何十人はいないはず。
各人のMPにも限りがあるし、食料の輸送にあまり多くの転移魔法士の人手を割くことはできない。
「ハンナとやら。俺に従う気はあるか? 衣食住に困らない生活を約束しよう」
「あ、ありがとうございます。もちろん、従わせていただきます。夜伽もできますので、よろしくお願いします」
ハンナがそう言う。
少し緊張しているようだな。
体が震えている。
「よし。ではこの娘ももらおう」
夜伽か。
奴隷という弱い立場に付け込んで、そういうことを命じるつもりはない。
ミティやアイリスたちの目もあるしな。
しかし、ハンナを奴隷としては破格の待遇で甘やかし気味に働かせることで、忠義度を稼げるかもしれない。
十分に親密になってからであれば、夜伽を頼んでみるのもありだろう。
ミティと同じようなイメージだ。
……いや、ミティの場合は彼女から強引にされてしまったのだったか。
俺はハンナの顔と体を改めて見る。
どこにでもいそうな普通の女性だ。
背が小さくて、天使のように可愛いミティ。
引き締まった体をしていて、ボーイッシュなアイリス。
引き締まりつつも女性らしい体型で、明るい性格のモニカ。
幼いながらもキラリと光る将来性を感じさせるニム。
スレンダーながらも、獣化時の露出の多い服が印象的なユナ。
彼女たち5人は、非常に魅力的な女性である。
しかし、ハンナのようなどこにでもいそうな普通の女性も、これはこれで逆に新鮮だな。
「ぐふふ」
俺はハンナに手を伸ばそうとする。
「ひっ」
ハンナが思わずといった感じで身を引く。
まだ早かったか。
もう少し仲良くなってからだな。
ミティからの視線も冷たい気がするし。
「(くっ。ううっ)」
……ん?
奴隷のだれかから、何やら小さな声が聞こえた。
ハンナの隣に立っていた男が発した声のようだ。
どこにでもいそうな普通の男だ。
「この男は?」
「ニルスです。ハンナと同じ農村の出身ですな。彼女と同じく、口減らしで売られました」
ううむ。
働き盛りの男を売るとは、相当困窮していたようだ。
「ニルスとやら。ハンナが俺に買われることに、何か思うところでもあるのか?」
何となく想像はつくが。
一応は、本人の口から聞いておこう。
「い、いえ。不満など何もありません。タカシ騎士爵様のようなすばらしいお方にもらわれて、ハンナがうらやましく思っただけであります」
ニルスがそう言う。
彼も何やら緊張している様子だ。
ミティが俺の耳元に顔を近づけてくる。
「(タカシ様は貴族様になられました。下々の者たちには、どうか寛大な心で接してくださいね。私は信じていますから)」
彼女が小声でそう耳打ちする。
そうか。
俺は貴族になったのだった。
自身の地位や影響力を意識して、適切な態度をとっていく必要がある。
ミティの信頼を裏切るわけにはいかない。
「ニルス。それは本心か? 何も罰したりしないし、怒ったりもしないと誓おう。本当のことを言え」
「…………! ハ、ハンナと俺は、将来を誓い合った仲だったのです……! 彼女が俺以外の男のものになると思うと、胸が張り裂けそうで……」
ニルスが絞り出すような声でそう言う。
そんなところだろうと思ったよ。
「ニルス……」
ハンナが悲しみにあふれた顔でそう言う。
「ふむ。事情はわかった。では、2人ともいっしょにもらおう。仕事は後で考えるが、できるだけ2人でいっしょに働けるように取り計らう」
俺はそう言う。
将来を誓い合った2人の仲を切り裂くようなことは、俺にはできない。
ミティからの視線もあるしな。
それに、忠義度を稼ぐ上でもこれがベストではなかろうか。
ムリにハンナを俺の女にしても、忠義度はなかなか稼げそうにない。
むしろ、ハンナからもニルスからも、かなり恨まれそうだ。
こうして2人の仲に配慮して仕事を割り振ることで、彼らからの忠義度も稼いでいけるだろう。
「「あ、ありがとうございます!」」
ハンナとニルスが、感極まった声でそう言う。
忠義度も、あっさりと20超えだ。
今にも30に届きそうである。
人が喜ぶようなことをすると、こちらもうれしくなってくるな。
まあ、忠義度稼ぎが目的ではあるが。
これから実際に仕事を割り振って、2人で幸せな日常を送ってもらえば、俺に対する忠義度もさらに稼いでいけるだろう。
楽しみだ。
さて。
ここまでで購入を決めたのは3人。
猫獣人の犯罪奴隷クリスティ。
どこにでもいそうな普通の女性ハンナ。
どこにでもいそうな普通の男性ニルス。
他にもめぼしい者がいれば、買っておきたいところだな。
少し気になるのは……。
引き締まった体をしている女性。
大柄の男。
片目に眼帯をつけている幼い少女。
このあたりか。
順番に、店長に聞いてみることにしよう
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