【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1688話 琉徳のうどん

公開日時: 2025年3月16日(日) 12:10
文字数:1,003

 華河藩、城下町の一角にあるうどん屋『紅乃庵』。

 その店先には、対決の開始を待つ人々が集まり、ざわめきが広がっていた。


 ――讃岐家の嫡男・琉徳と、紅乃のうどん勝負。


 決着の場は、店の近くにある広場。

 会場では湯気がゆらめき、白木の机が清潔に整えられている。

 その場に座す五人の審査員たちは、緊張に包まれた空気を微かに漂わせていた。

 彼らは琉徳の影響下にある者ばかり――公平な審査を期待するのは難しい。

 しかし、その五人の中にただ一人、余所者の娘が混じっていた。


「わたくしは審査員の璃世ですわ。公平に審査させていただきますわよ」


 青い瞳を輝かせ、優雅な所作で席につくリーゼロッテ。

 彼女の声は澄んでおり、場の空気を一瞬で引き締めるほどの存在感を放っていた。

 その横で、琉徳は不敵な笑みを浮かべる。


「ふん。紅乃の腕がどれほどのものか、見せてもらおう。さっさと始めるぞ」


 言葉とともに、彼は袖をまくる。

 彼もまた、紅乃と同じくうどん職人としての一面を持っていた。

 その仕草には余裕が滲み、すでに勝利を確信しているかのようである。

 そうして、うどん対決の幕が上がった。


「――待たせたな。いっちょ上がりだ!」


 静寂を破るように運ばれてきたのは、琉徳が作った『金糸うどん』だった。


 器の蓋が開かれた瞬間、上品な香りがふわりと広がる。

 黄金色に輝く細麺は、一筋の乱れもなく整えられ、まるで絹糸のような滑らかさを誇っていた。

 干し鮑や山海の珍味が丁寧にあしらわれ、まるで御前試食の膳を思わせる華やかさだ。

 華河藩が誇る上質な塩を用いた出汁には繊細さと深みがあり、その香りが審査員たちの鼻腔をくすぐる。


「これぞ華河藩の誇り。格式ある食の極みよ」


 琉徳が誇らしげに胸を張る。

 その自信は絶対的なものだった。

 審査員たちは静かに器を手に取り、慎重に箸を進めた。

 一口、口に運んだ瞬間、その表情が微かに和らぐ。


「……これは確かに見事な出来だ」

「香り高く、上品な味わい……まるで御前試食の料理のようだ」


 誰もが感嘆の声を漏らし、頷き合う。

 確かに、この一杯には研ぎ澄まされた技術が詰まっていた。


 その中で、リーゼロッテもゆっくりと箸を動かす。

 青い瞳がじっと麺を見つめ、慎重に口に運んだ。

 ひと呼吸の間を置き、静かに味を確かめる。


「……たしかに、美味しいですわね。ですが……」


 彼女の眉がわずかに寄る。

 その僅かな変化が、まるで湖面に落ちた一滴の水のように静寂を広げ、場の空気を張り詰めさせた。

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