俺は王都騎士団にやって来た。
闇カジノの場に居合わせた、闇蛇団の非構成員の処理を手伝うためだ。
「それで? 俺に何をしろと?」
俺はレティシア中隊長に用件を尋ねる。
今日はイリーナ大隊長は不在のようだ。
彼女は『誓約の五騎士』として忙しいらしい。
「ハイブリッジ男爵に行っていただきたい用件は3つです。まずは……」
レティシアが説明を始める。
1つ目の用件は、闇カジノに居合わせた非構成員たちの取り調べ。
次に、構成員たちの罪状確定にあたっての口添え。
そして最後に、被害者ノノンのアフターケアだ。
「わかった。優先度はどうなんだ?」
「挙げた順に処理していただければと。まずは非構成員たちの取り調べですね」
「了解した。早速取り掛かろう」
俺は取り調べを行う場所に向かう。
「ふうむ。罪人を収容する場所の割には、結構きれいなんだな」
「えぇ。正確に言えば罪人ではなく、罪人になるかもしれない者と留め置く場所ですから」
「なるほど」
日本で言えば、留置場みたいなものだろうか?
まぁ、日本においては留置場に入れられた時点で世間からは犯罪者として見られるが。
留置場収容からの有罪率が非常に高いからな。
確か、99パーセントを越えていたはずだ。
それが良いことなのか悪いことなのかは、一概には言えないところだが。
「さっさと始めよう」
「はい。今回、ハイブリッジ男爵に尋問していただく者はひと部屋に集めております」
「ほう? なんでまたそんな……。わざわざ俺が呼ばれた理由とも関係があるのか?」
「それは――」
レティシアが口を開きかけたのと、俺が部屋に足を踏み入れたのはちょうど同じタイミングだった。
部屋の中に広がる光景に、俺は思わず息を呑んでしまう。
なぜなら――
「ハイブリッジさま! 私は無実なの!!」
「男爵様! どうかお口添えを!!」
「私たちは嵌められたんです!! 信じてください!!」
「お願いします!! このままじゃ勘当されちゃう!」
女性ばかりが詰め込まれていたからだ。
しかも、皆一様に涙を流しながら、俺に懇願してくる。
「……どういうことだ?」
俺は呆然としながら、レティシアの方を見る。
「彼女たちに見覚えがあるでしょう? 例の裏カジノで違法賭博を行っていた者たちですよ」
「あぁ……。そういえばいたような気がする」
言われてみれば、確かに見覚えがある。
「彼らは闇蛇団の一員ではありません。しかし、違法賭博の罪があります」
「ふむ。それならば、王国法に基づきさっさと処理してしまえばいい」
「それが、そう簡単な話ではないのです」
レティシアが耳打ちしてくる。
「ん? なぜだ?」
「この者たちは、貴族の遠戚者や末端の関係者が含まれているのです。法律をそのまま適応してしまうと、私たち王都騎士団と問題が生じてしまいます。重罪であるならばまだしも、たかが違法賭博ごときで波風を立てるのは本意ではありません。しかし一方で、あっさりと無罪放免にしては舐められてしまいます」
「あぁ……。そういうことか」
要するに、お偉方ならではのしがらみというものがあるのだろう。
あの賭博場には、中級冒険者の男もいたはずだが。
奴らは、法律に基づいて適切に処理済みなのだと思われる。
一方で、貴族の遠戚者などが含まれる女性陣の処分は保留にしていたと。
中隊長に過ぎないレティシアには少し荷が重い案件かもしれない。
大隊長のイリーナならばその判断力と権限でいい感じに処理してくれそうだが、彼女は別件で多忙だ。
他の”誓約の五騎士”だったりネルエラ陛下に話を持っていけば、イリーナに負けず劣らずいい感じに処理してくれるだろう。
だが、彼らは彼らでみな忙しい。
それに、元はイリーナやレティシアに振られた案件を簡単に他の者や国王に持っていくようでは、イリーナやレティシアの能力が疑われてしまう。
そこで白羽の矢を立てられたのが俺ということなのだろう。
男爵である俺はそこそこ忙しいが、元々王都を拠点に活動している彼らほどではない。
その上、闇蛇団絡みの案件においては、まるっきり他人事というわけでもない。
レティシアからしても、他の者に頼むよりは俺に頼んだ方が安心できるというわけか。
「よし。任せておけ。レティシアは退出していいぞ」
「え? ですが……」
「この俺が任せておけと言ったんだ。何か不満でも?」
俺は自信満々にそう言う。
この案件の肝は、『安直に全員を有罪にすれば角が立つが、安直に全員を無罪にすれば舐められる』という点だ。
つまり、悪質な者、常習性のある者、反省していない者を見極めて有罪にして、その他は情状酌量の余地ありとでも報告すればいい。
尋問に役立つ能力はいくつか持っている。
「あ、いえ……。それでは、お願いいたします」
「おう。ま、大船に乗ったつもりで待っているがいい。次にお前と会うときには、全てが丸く収まっていると誓おう」
「…………」
レティシアは少しだけ微妙そうな顔をしていたが、大人しく退出していった。
これで、この部屋には俺と、4人の女性被疑者だけが残った。
さぁ、尋問の時間だ。
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