俺はダダダ団アジトのとある部屋に乱入し、ヨゼフを殴り飛ばした。
そして、取り急ぎエレナとルリイを拘束から解放した。
「さて、次は貴様だ。美しき三日月が荒れた大地に落とされたか……」
「んんーっ!!」
エレナやルリイの状況も酷かったが、テナも負けず劣らず酷い状況だ。
部屋の中にわざわざ砂利をまかれ、その上に正座で座らされている。
ご丁寧に、膝の上には重りが乗せられている始末だ。
「しばし待て。これより、地に落ちた三日月を空へ戻そう」
「んん……!」
俺はテナの拘束を解き、正座状態から解放する。
そして、口枷を外してあげた。
「あ、ありがとうっす。怪しい人っすけど……」
「闇に魅入られた哀れな子羊よ。今こそ俺の手を取り立ち上がるがいい。さすれば、闇は晴れるだろう」
俺は適当なことを言っておく。
正座していたせいか、足を痛めている様子だ。
立ち上がるためには手を貸してやる必要があるだろう。
「オレっちなら大丈夫っす! 足腰も多少は鍛えているっすから!!」
テナは自分の力で立ち上がった。
強い子だ。
土魔法使いは、魔法使い系の中では比較的身体能力が高い者が多い。
初級土魔法に『ロックアーマー』が存在する影響だろう。
ミリオンズのニムや、ノノンの父親であるニッケスも、なかなかの身体能力を誇る。
「――って、うわわっ!」
「む」
とか考えていると、バランスを崩したテナが倒れ込んできた。
咄嵯に受け止める。
「も、申し訳ないっす……。お陰様で助かったっす……」
「構わない。闇の底から這い上がったばかりの少女が倒れ込むことなど、想定の範囲内だ。差し当たって戦局に影響はない」
俺はテナを抱きしめながら、そう答える。
「……」
「……」
「……あ、あの……」
「どうした? 哀れな少女よ」
テナの言葉を受け、俺が尋ねる。
すると彼女は、頬を染めて恥ずかしげに言った。
「助けてくれて、本当に感謝するっす……。でも……そろそろ離してほしいっす……。というか、お尻を鷲掴みにされたら恥ずかしいっす……」
「ん?」
テナに言われ、俺は自分の腕の中を見る。
そこにはテナの身体があったのだが……なぜか俺の手が彼女の臀部を揉んでいたのだ。
(無意識のうちに触ってしまったのか……)
俺の肉体は美少女を求めるあまり、俺の意志とは無関係に動くことがあるらしい。
全く困ったものだ。
(俺がタカシ=ハイブリッジだとバレていないよな……?)
ミリオンズの面々、ハイブリッジ男爵家配下の面々、その他男爵としての俺に関わった者は、俺の気性や嗜好というものを知っている。
黒い装束に身を包み仮面で顔を隠していても、女好きであることをヒントに『ナイトメア・ナイトとタカシ=ハイブリッジ男爵が同一人物』という事実に気付かれる可能性はあるかもしれない。
(いや、この3人は大丈夫か。タカシ=ハイブリッジ男爵としての俺と、直接の交流はないし……)
彼女たちが知っている俺は、『冴えないDランク冒険者タケシ』である。
ならば、女好きであることをヒントに『ナイトメア・ナイト』の正体に辿り着かれる心配はないだろう。
俺は安心して、テナの体から手を離す。
「これは失敬。闇は時に、人の心を飲み込む。気を付けねばならない」
「そ、そうっすか……。み、見かけ通りヤバい人っすね……」
テナが引き気味に言う。
ピンチに颯爽と登場することによって稼いだ好感度が、あっという間に下がってしまった気がする。
ま、まぁいい。
とりあえず3人とも無事だったんだから。
「最後は貴様だが――特に外傷はないようだな?」
「は、はい! 傷は何もないです!」
「しかし念のため――」
「い、いえ! 大丈夫です!! 本当に!!」
魔導工房の少女にも外傷はないらしい。
何やら力説されてしまった。
純粋に心配しているだけなのに、不本意だ。
ま、いいか。
これで囚われの少女たちの無事は確定した。
俺が次にするべきことは――
「ふん……。邪悪な闇がまた這い出てきたか……」
「ちっ! 舐めやがってよぉ! ダダダ団を敵に回して、生きて帰れると思うなよ!!」
とりあえず、こうしてイキっているヨゼフを倒すことからだな。
俺がエレナたちを解放している間に、奴は仲間を呼んでいたようだ。
彼の背後には、ダダダ団のチンピラたちが集まってきている。
手間が省けた。
さっさと倒して、ダダダ団を壊滅させることにしよう。
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