「兄貴ぃ……。き、着替えぐらい自分でできるぜ?」
「遠慮するな。俺がやってやる」
俺は流華にそう告げる。
繰り返しになるが、彼は12歳ぐらいだ。
自分ひとりで着替えることなど造作もないだろう。
だが、今回は手助けしたい理由がある。
「その右手首から先……。俺の治療魔法で少し盛り上がってきたが、まだ完治には程遠い。一人で着替えるのは不便だろ?」
「そ、それはそうだけど……。なんというか、恥ずかしいというか……」
「大丈夫だ。俺は気にしない」
「兄貴が気にしなくても、オレが気にするんだよ!」
流華が叫ぶ。
まぁ、その反応は予想できていた。
さっきの少年とのやり取りでも感じたことだが、流華は自分の胸筋やモノのサイズに劣等感を持っているようだったからな。
兄貴と呼んで慕っている俺が相手でも――いや、そんな俺が相手だからこそ、自分の体を見られたくないのだろう。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
「むしろ、俺は嬉しいぞ」
「え?」
「俺の迂闊な行動により、お前には迷惑をかけた。にもかかわらず、お前は俺に文句を言うどころかこうして慕ってくれている」
「べ、別に慕ってなんか……」
「俺はその感謝を形にしていきたい。右手首を完治させるのはもちろん、俺がお前を鍛えて独り立ちできるようにしてやる。そのためにも、体の細部までしっかりと把握できるこの機会はありがたいものだと思っているんだ」
「……分かったよ。兄貴がそう言うなら、いいぜ……」
「すまないな。では、さっそく始めよう」
俺は流華に近づく。
彼は諦めたような、そして少し嬉しそうな表情を浮かべていた。
「まずは上半身だ。着替えるために脱がせるが、その際に各部の状態を確認させてもらうからな」
「お、おう……」
俺は流華のオンボロ服に手をかける。
謝罪回りのときに惨めさを演出するため、あえて着させていた服だ。
「ほら、バンザイして……」
「こ、こうか?」
流華は素直に従う。
彼の脇があらわになった。
俺はそこに顔を近づける。
「な、何してんだよ!?」
「? 何を慌てているんだ?」
「だ、だってよぉ……。そんなところの匂いなんか嗅ぐなんて……」
「大丈夫。いい匂いだ」
「えっ? お、おう……」
俺がそう言うと、流華はおとなしくなった。
彼は顔を赤くしている。
恥じらっているのだろうか?
……男なのにな。
いや、それを言うなら俺も変なのだが。
無意識に体が動いてしまったが、俺に野郎の脇を嗅ぐ趣味などなかったはずだ。
「あ、兄貴ぃ……。も、もういいよな? そろそろ……」
「ああ。これで脇の確認は終わりだ」
俺は流華から離れる。
彼の表情は安堵半分、残念さ半分といったところだった。
匂いを嗅がれて喜ぶなんて、彼も特殊な趣味の持ち主だな。
将来が心配だ。
「次は胸部だ。大胸筋を確認させてもらうぞ」
「う、うん……」
流華が頷く。
野郎の胸なんて見ても楽しくはないが、これも必要な行為だ。
俺を兄貴と呼んで慕ってくれている少年のため、万全のチェックをしていくことにしよう。
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