風魔法の鍛錬という名の露出プレイを行っている。
……いや、違う。
露出プレイという名の鍛錬を行っている。
蓮華が催してしまったので、仕方なく路地裏で放出してもらった。
しかしその途中で、人が近づいてきてしまったところだ。
「マズいぞ。蓮華、まだ終わらないか?」
「きゅ、急には止まらないでござる……」
「仕方ないな……。こうなったら……」
ここから何とかして立ち去るしかない。
俺は蓮華の背後に回って足を抱える。
そして、彼女の身体を持ち上げようとした。
「あっ……」
「えっ?」
俺の手が触れた瞬間、蓮華が小さく声を上げる。
同時に、彼女の全身がビクッと震えた。
まるで電流でも流されたかのように。
「ど、どうした? 痛かったか?」
「あ……、そ、その……、大丈夫でござる」
蓮華は顔を真っ赤にして言う。
何か言いたいことがあるようだったが、結局何も言わなかった。
「そうか……。なら、いいんだが……」
よくわからないまま、俺は再び彼女を抱え上げる。
すると、
「……!!」
またも蓮華が小さな声を上げた。
「ま、まさか……。蓮華、お前……」
「な、なんでもないのでござるよ」
蓮華は顔を赤くして俯いてしまう。
だが、俺の目は誤魔化せない。
彼女は今、俺に抱え上げられただけで感じていたのだ。
すぐ近くにロディやアンヌが来ているというのに。
「……」
「た、たかし殿!? な、何をしているでござる!?」
「静かにしろ。見つかる」
「し、しかし……」
俺は蓮華を抱えた状態で突破口を探す。
だが、少しモタモタしていたせいでロディとアンヌが曲がり角に差し掛かっている。
もう一刻の猶予もない。
(どうする? 俺の領主生活が終わってしまう……。目撃者を消すか? しかし、自分から露出プレイをした癖にそんなことをするわけには……。ましてや、相手はロディとアンヌだぞ……)
一瞬の間に様々な思考を走らせる。
俺が抱えた蓮華の股間からは未だに液体が漏れている。
「……そうだ。あれがあったか」
俺は急いでアイテムボックスから魔道具を取り出す。
「『透明マント』!」
蓮華ごと覆い隠すようにマントを羽織る。
そして、魔力を開放する。
これで、俺たちが視認される危険性は低くなったはずだ。
「へへっ。今晩の肉料理が楽しみだぜ!」
「ええ。ロディくんはお肉の料理が好きなのですよね」
「ああ! それに、ただ好きなだけじゃねえぜ! タカシの兄貴の役に立てるよう、早く筋肉を付けないといけねえからな!」
「ふふ。ロディくんは本当にご領主様が好きなのね」
「俺たちがたくさん食べられるのは、兄貴のおかげだ。恩返しをロロの奴だけには任せておけねえ!」
ロディとアンヌがそんな会話をしながらこちらに近づいてくる。
もうすぐ目の前を通る。
(よし、ここが正念場だ。蓮華、静かにしていろよ……)
(う、うむ……)
蓮華は恥ずかしそうな顔で答える。
そして、ゆっくりと目を閉じた。
(……んっ)
俺の腕の中で小さく身体を震わせる。
彼女の股間から放出された液体が俺の服を濡らすが、今は気にしないことにする。
「おっ?」
「あら?」
ついに、ロディとアンヌが俺たちの目の前までやってきた。
「なんだこれ? 地面が濡れてるぜ」
「本当ですねえ。今日は快晴ですけど、ここだけ雨が降ったのかしら?」
「そんなことがあるのか?」
「あまりないことですけど、ありえなくはないですね。もしくは、誰かが飲み物をこぼしたとか、住民の方が不要な生活水を捨てたとか……」
「誰かが立ちションをしたっていう可能性もあるぜ!」
彼らがそんな推理をしている。
「あれ? なんか、水が増えてないか? シスター、見てよ」
「どれですか? ……あら、確かに増えていますね。でも、どうしてでしょう?」
「わかんねえ! 雨は降ってねえし、誰かの立ちションっていう線も消えたしなあ……」
彼らが首を捻る。
しかし残念。
その推理は不正解だ。
立ちションで正解だったのに。
まあ、まさか透明になる魔道具を使って立ちションをする奴がいるなんて想像もできないだろうし、推理できなくて当然ではあるのだが。
「……ん? シスター! このあたりの空中から水が出てきているみたいだぜ!」
「本当ですね。不思議なこともあるものです。魔素の吹き溜まりになっているのかしら?」
魔素とは、魔法の源となるものだ。
空気中を漂っていると聞いたことがある。
俺はとりあえず酸素や窒素のようなイメージで理解しているが、その理解で正しいのかどうかは分からない。
魔素は空気中を循環するが、吹き溜まりとなった箇所では水が発生したり不可思議な植物が生まれたりなど、普段は起きない事象が起きることがある。
それは魔素の濃度が高い場合に多いようだ。
「へー。面白れえな。こんな空中から水が出てくるなんてよ」
ロディが水の発生源のあたりをマジマジと見る。
(マズいな……。いくら透明になっているとはいえ、ここまで近づかれると……。とりあえず水を押さえないと)
俺は手で蓮華の股間を押さえる。
水の発生を止めないと、ロディの興味が収まらない。
(んっ! はうぅ……。たかし殿の指が……)
蓮華が悩ましい声を発する。
彼女は限界状態だ。
羞恥心が極限まで達しているらしく、全身を小刻みに震わせている。
「この辺に何かあるのか?」
ロディが水の発生源に手を伸ばす。
不可思議な現象に興味を示し理解しようというその姿勢は評価できる。
孤児院の子どもたちの中では、ロロに次いでの期待株だ。
しかし、今はマズい。
(仕方ない。少し強引だが、ここは離脱だ!)
俺は闘気を足に込める。
そして重力魔法のレビテーションを発動し、一気に上空へと舞い上がる。
そのまま近くの家屋の屋根へと飛び乗った。
「あれ? 水が止まった」
「きゃっ。水が顔に……。どうやらこのあたりには魔力が吹き溜まって、雨が発生しているようですね」
ロディとアンヌの声が下から聞こえる。
いい感じに勘違いしてくれたようだ。
俺はそのまま少し離れたところの屋根に移動する。
これで彼らに気付かれる危険性はなくなった。
「蓮華、大丈夫か?」
「はぁはぁ。う、うむ。なんとか……」
「とんだハプニングだったな。風魔法の鍛錬も一筋縄ではいかないものだ」
俺は透明マントを脱ぎながら言う。
「は、早く下ろしてほしいでござる……」
「ああ、悪い。今下ろす」
「ひゃっ!?」
俺が急に動いたせいで、また股間を刺激してしまったらしい。
「すまない。痛かったか?」
「い、いや、大丈夫でござる……」
蓮華が恥ずかしそうにそう言う。
何とか服装を整え、普段の和服姿の彼女となった。
改めて見ても、金髪碧眼の凛々しい表情と和服が似合っている。
つい先ほどまで謎の露出プレイをしていた者と同一人物とは思えない。
「……こほん。とんでもない目にあったでござるが、掴めるものもあったでござる」
「そ、そうか?」
何か掴むようなものがあっただろうか?
まさか……。
「露出プレイにハマったのか? 蓮華がそう言うなら、時には付き合うが……。バレたらヤバいし、ほどほどにな」
「ち、違うでござる! そんな趣味はないでござるよ!」
本当だろうか?
どうにも疑わしいが……。
「じゃあ、一体何を掴んだんだ?」
「風魔法の極意でござるよ。纏装術の習得へ向けて、大切なことを得た気がするでござる」
「おお? それは凄いな。頑張ってくれ」
「任せるでござる!」
彼女はグッと拳を握った。
今回の露出プレイで、彼女の中に眠る新たな才能が開花したらしい。
本当かどうかかなり怪しい気もするが、彼女が言うのなら信じるしかない。
期待しておくことにしよう。
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