エリオット王子は、俺の右足の拘束が解除されていたことを黙認してくれた。
そして、話題は魔物襲撃の事へと移っていく。
「今回の襲撃は、今までにない規模のものだった。里の戦士たちが総出で事に当たったが、それでも甚大な被害が出た」
「ふむ。確かに怪我人は多かったな。俺も治療を手伝わせてもらったが……」
俺はそう答える。
治療岩に来た戦士の中には、重傷者も多かった。
普段からあれだけの被害が出ていたら、戦士団の維持自体が難しいようにも思える。
「襲撃してきた魔物の中には、リトルクラーケンの姿があった」
「ほう……。リトルクラーケンか。そう言えば、戦士の誰かもそう言っていたな」
海の魔物の中では上位に入る存在だろう。
ジャイアントクラーケンやクラーケンに比べると、やや戦闘力は落ちるが……。
それでも脅威であることには違いない。
「うむ。おそらくは、ジャイアントクラーケンが死亡したことにより生態系が狂ったのだろう。リトルクラーケンの行動範囲に影響が出たようだ」
「そんな影響が……」
「しかも厄介なことに、奴らは他の魔物を引き連れていたのだ。それがまた数が多くてな……」
「なるほど。それは大変そうだ」
エリオットの話に、俺はうなずく。
通常、別種の魔物同士が群れることはない。
あくまで別々の種族としての生存本能があるからだ。
地球の動物で言えば、ライオンやトラ、シマウマ、ゾウ、キリンで構成された群れがないのと似たようなイメージだろうか。
まぁ、局所的な例外もあるだろうが……。
「リトルクラーケンを始めとした魔物の群れは、里の外周部を襲った」
「外周部か」
そう言えば、人魚の里の外周部はどのような構造になっているのだろう?
俺は知らない。
気絶中に、メルティーネによって運ばれてきたからだ。
「貴殿には見せていなかったな。里の外周部には、魔法と物理の両面で構成される防壁がある」
「魔法と物理?」
「まずは結界魔法だな。魔法師団が張ったものだ。外からの認識を歪める効果がある。里の存在に気付かれないことこそ、最大の防衛策というわけだ」
「ふむ。一理あるな」
俺はうなずく。
結界魔法。
噂ぐらいは聞いたことがある。
ラーグやリンドウに張れば、安全度が増していただろうが……。
同時に、旅人や行商人が街を見つけられず迷ってしまうリスクも増す。
人魚の里のように外との交流がない街はともかく、普通の街ではデメリットの方が大きい。
「だが、結界も完璧ではない。あくまで『気付かれにくくする』という程度だ。今回は、リトルクラーケンが里の場所に気付いてしまったようだった。そして、奴に追従するように他の魔物たちもやってきた」
「なるほど。運が悪かったようだな」
「ああ。しかしもちろん、結界を突破されて終わりではない。次は、魔物の侵入を物理的に防ぐ防壁がある」
「ふむ……。用心深いな」
俺は感心する。
侵入防止策を一種類だけではなく、二種類用意する。
それにより、里の安全度は飛躍的に向上することだろう。
「今回、何とかリトルクラーケンたちを撃退できたのは防壁のおかげだ。戦士たちは地の利を活かして戦うことができた。しかし、それでも犠牲は出た。戦士たちの怪我の他、防壁もかなり壊されてしまった。奴にとどめを刺せなかったことも悔やまれる」
「そうか……」
俺は腕を組む。
今回の襲撃において、良くない結果が3つ発生しているようだ。
1つは、怪我人の大量発生。
2つ目は、防壁の損傷。
3つ目は、討伐ではなく撃退しかできなかったことだ。
怪我人はざっくりと治療済みなので、とりあえずはいいだろう。
となると、他に俺ができることは――。
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