俺たちはリトルクラーケンをあっさりと討伐した。
安心したのも束の間。
再び船が揺れ出す。
「おいおい、またかよ……」
俺は警戒しながら周囲を見渡す。
海上に魔物は見当たらない。
俺の気配察知スキルの効果範囲内にも、生物の気配はない。
だが、実際に船が不規則に揺れている。
これは波によるものではない。
もっと大きな力が船を襲っているのだ。
「次は何が出てくるんだ?」
俺はそう呟く。
船が大きく揺れた。
「きゃーっ!?」
「わっ!」
俺の後方で悲鳴が上がる。
振り返ると、レインと月が触手に襲われていた。
「ちぃっ! またリトルクラーケンか!?」
俺はそう叫ぶ。
触手の形状は、リトルクラーケンと同じに見える。
ならば、先ほどと同じくさっさと討伐して――
「タカシ様! こちらからも触手が!!」
「うへぇ……。ヌルヌルしてそう……」
ミティとアイリスが声を上げる。
彼女たちは、レインや月とは別方向にいた。
にもかかわらず、同時に触手で襲われている……?
「こ、これはリトルクラーケンではありません!」
「触手の形は同じだけど、サイズが桁違いだよっ!」
ニムとモニカがそう叫ぶ。
彼女たちの前方にも、触手が伸びていた。
正体不明の魔物だが、大人しく襲われっぱなしではいられない。
「みんな! 迎撃だ!! 海に引きずり込まれないよう、細心の注意を払ってくれ!!!」
俺はそう叫ぶ。
多少の外傷ぐらいなら、治療魔法で回復させることができる。
治療魔法のスペシャリストであるサリエの他、俺、アイリス、マリア、リーゼロッテもいるからな。
しかし、海に引きずり込まれると厳しい。
さすがのミリオンズでも、海中でまともに行動できるものは少ない。
俺は、人魚メルティーネの加護により水中でも最低限の呼吸ができるが……。
その他の面々については、海中に引きずり込まれないよう気をつける必要がある。
「……アイスレイン……」
「【梅花一閃】~!」
雪と花が応戦する。
雪の魔力で構成された氷の雨と、花の鋭い斬撃が触手を襲う。
「ごああぁっ! がぶっ!!!」
ドラちゃんがまた別の触手に噛み付いている。
ファイアーブレスを使えば一瞬で黒焦げにもできそうだが、それではこの船ごと燃えてしまう可能性が高い。
しっかりとそのあたりも考えて戦ってくれているようだ。
「【グレート・ゴースト・カミカゼ・アタック】!!」
ゆーちゃんが霊体の一部を操り、そのまま触手に突撃させた。
そして、その分体が触手に触れるや否や爆発を起こした。
……どういう原理で爆発したんだ?
ゆーちゃんの加護はまだ『小』止まりなので、彼女のスキルの全容はまだ不明だ。
「グオオオオォ……ッ!!」
謎の魔物が叫ぶ。
そして、ゆっくりと海上へと姿を表した。
「なっ!? で、デカ過ぎんだろ……」
俺は驚愕した。
触手の形状から推測していた通り、それはリトルクラーケンと似た魔物だった。
問題はそのサイズだ。
海上に出ている部分だけで、20メートルはある。
海中に隠れている部分は、もっと長いはずだ。
「ちっ……。リトルクラーケンの親玉的な存在か……」
「噂で聞いたことがあります……。これは、クラーケンですわ」
リーゼロッテが俺に向けて、そう口にした。
クラーケンか……。
まぁ、リトルクラーケンがいるなら、普通のクラーケンもいるか。
「リーゼ、詳しく知っているのか?」
「ええ……。海の底深くに住んでいる魔物で、リトルクラーケンの親玉として恐れられていると……」
「ふむ……」
リトルクラーケンなら、今のミリオンズにとって脅威ではない。
しかし、親玉であるクラーケンがいると話は変わるだろう。
「グオオォーッ!!」
クラーケンが吠えた。
そして、その巨大な触手を縦横無尽に振り回してくる。
「ちっ! ――【千本桜】ぁ!!!」
俺はオリジナルの火魔法を発動。
無数の火球が、触手を迎え撃った。
そのダメージによりクラーケンの触手攻撃は中断される。
「みんな! 今のうちに態勢を整えるんだ!!」
俺はそう指示をした。
隠密小型船は小さめの船ではあるが、極狭というほどではない。
デッキの四方に戦力を分け、触手を迎え撃つ準備を進める。
「やれやれ……。ここまで大きいと、なかなか厄介だな……」
俺はそう呟く。
クラーケンの本体はとてつもなく大きい。
海上に出ている箇所だけで20メートル以上。
海中にある部分も含めると、50メートル以上あるかもしれない。
触手の数は、少なくとも20本は超えているだろう。
本体のサイズ感だけでも脅威なのに、触手は俺たちや船を狙って攻撃を仕掛けてくる。
非常に厄介だ。
「いくぞ! みんな!! 気合を入れていこう!!」
俺は仲間たちに向けてそう鼓舞した。
「はいっ!」
「任せてっ!!」
「承知いたしましたわ」
「いっちょ暴れるわよ」
「えぇ。頑張りましょう」
ミティ、アイリス、リーゼロッテ、ユナ、サリエが元気な返事を返してくれる。
こうして、俺たちとクラーケンの戦いが幕を開けたのだった。
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