「俺たちを治療したい気持ちは分かったけどよ……」
「お前いったい、何者なんだ?」
人魚族の戦士たちは俺に尋ねる。
俺は、しっかりと名乗ることにした。
「なんだかんだと聞かれたら……答えてあげるが世の情け」
俺は前口上を口にする。
この発言に、戦士たちはポカンとした。
「え? 急に何なんだ?」
「いったい何が始まるんだ……?」
困惑する人魚族の戦士たち。
俺は構わず、そのまま続ける。
「世界の滅亡を防ぐため……世界の平和を守るため……愛と真実の悪を貫くラブリーチャーミーな敵役!」
俺はそこでいったん言葉を切り、ポーズを取る。
「ナイトメア・ナイト!! 見参!!!」
そして、人魚族の戦士たちに堂々と名乗った。
完全に決まった。
一度は言ってみたい台詞ランキング上位に位置する名ゼリフだ。
少しばかり端折らせてもらったけどな。
「「…………」」
人魚族の戦士たちは反応に困っていた。
あれ、反応薄いな。
「あの……。ナイ様?」
「どうした? メルティーネ」
俺は人魚族の戦士たちから視線を外してメルティーネの方を見る。
彼女は何とも言えない表情をしていた。
「ナイ様は……人魚族の敵ですの?」
「いや、違うが」
俺は即答する。
何を言い出すんだ、この子は……。
そんなわけないだろうに。
「え? でも今、ナイ様はそう仰られて……」
「言ってみただけさ。敵役と言ったら、なんとなく格好いいだろう?」
「そ、そうでしょうか……?」
メルティーネが首を傾げる。
今の名乗りにどんな意味があったのか、いまいちピンとこないようだ。
まぁ、悪役という存在にカッコ良さを感じるのは男児限定かもなぁ。
「ゴホン! ……まぁそういうわけで、俺は『ナイトメア・ナイト』という者なんだ。先日のジャイアントクラーケン戦では、恐れ多くも一番槍を務めさせていただいた」
俺は咳ばらいをしつつ、名乗り直す。
今度は戦士たちも食いついてくれたようで、警戒しつつも俺の話を聞いてくれるようになった。
「ジャイアントクラーケンと言えば、あの……」
「あれに大ダメージを与えた人族がいたってのは聞いてる。でもよ……」
「俺たちは直接見たわけじゃないんだ。筋骨隆々で、とんでもないオーラを放ってたって聞いたぜ」
「こんなマヌケそうな奴が例の人族なのか? 噂と違うな」
人魚族の戦士たちは、やはり『ジャイアントクラーケンと戦っていた人族』という存在自体は認知していたようだ。
しかし、目の前にいる俺とその人物のイメージが重ならないらしい。
「む……。マヌケとは失礼な! この魔力を見てみろ!!」
俺はそう言って右手を掲げる。
人魚族の戦士たちは、俺の右手から立ち上る魔力に注目する。
「「おぉぉ……」」
声を漏らす戦士もいた。
俺はニヤリと笑ってから言葉を続ける。
「我が魔力の凄さを理解したかね? これだけの魔力があれば、お前たちの傷を癒やす程度は造作もない」
「そ、そうかもしれないけどよ……」
人魚族の戦士たちは顔を見合わせる。
やはり、簡単には俺を信用できないようだ。
「ちなみにだが、俺には『魔封じの枷』がはめられている。右手だけは解放されているが、左手と両足の魔力門は封印されたままだ」
「『魔封じの枷』……だと……。右手、右足、左足に……?」
「そうだ。つまり俺は、あと3回の変身を残していると言ってもいい。この意味が分かるな?」
「……っ!!」
「俺が全力を出せば、重傷者の治療だって可能ということだ。お前たちが信じるかどうかはさておき、俺なら大抵の傷病を癒やすことができる」
「「…………」」
人魚族の戦士たちは無言だった。
俺の言っていることが正しいのかどうか判断がつかないのだろう。
「しかしあいにく、枷を外す許可が下りなくて困っているんだ。これでは、軽傷者の治療ぐらいしかできなくてな……」
俺はそう説明する。
魔力を解放すれば、無理やり枷を弾き飛ばすことも可能だろうが……。
それは最後の手段だ。
「お前たち軽傷者の治療を、まずは任せてほしい。お前たちがその効果を喧伝してくれたら、重傷者の治療も任せてもらえるようになるかもしれない」
「そういうことか……。だが……」
「重傷者は、里を命がけで守った英雄なのだろう? お前たちの大切な仲間でもあるはずだ。せっかく生き残った誇り高く勇敢な戦士たちが、こんなところで苦しんでいていいのか? 予後が悪ければ、死に至る可能性もゼロではないぞ。戦闘で負った傷を舐めてはいけない」
俺はあえて煽るような言葉を口にする。
こういうタイプの戦士たちは、仲間や友人を大切にするタイプが多いからな。
「……分かった。そこまで言うなら、お前に任せる」
「俺たちを治療してみてくれ」
人魚族の戦士たちは戸惑いながらも頷いてくれた。
彼らにも彼らなりの信念や想いがあるのだろう。
それに応えられるよう、集中して治療魔法を発動しないとな。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!