「――はぁっ!!」
「うぐ……!」
俺は桔梗の木刀をいなす。
そのまま、彼女の手首に木刀を当てた。
「よし。これで勝負ありだな」
「……はぁ……はぁ……!」
桔梗は肩で息をしている。
俺は彼女の手首から木刀を外した。
「大丈夫か?」
「……うん」
桔梗は頷くが、その呼吸は荒いままだ。
数日前、俺は彼女に初めて2連勝した。
そのときは2連勝止まりだったが、その後も少しずつ勝率を上げている。
そして、今日はついに一日単位での勝ち越しに成功した。
そのこと自体は喜ばしいことのように思えるが……
「どこか調子が悪いのか? 動きに精彩がなかったが……」
「うん……。ごめん」
桔梗は申し訳なさそうに言う。
だが、答えにはなっていない。
彼女は若い女の子だが、武神流の師範代でもある。
その誇りや責任感から、他者に相談できないこともあるのかもしれない。
ここは、強引に話を聞き出すべきだろうか?
あるいは、詳しい事情は置いておいて、とりあえず治療魔法をかけておくという手もある。
「……」
桔梗は木刀を握りしめている。
その表情からは、俺に相談しようかしまいか迷っているという雰囲気を感じた。
そんな彼女に、俺は声をかける。
「言いづらいことなら、無理して言わなくてもいい。だが、もし困っていることがあるなら相談してくれ。何でも力になる」
「……うん」
「……」
「……」
2人の間に沈黙が流れる。
桔梗は迷っているようだったが、やがて意を決したように顔を上げた。
そのときだった。
「がっはっは! そやつが新入りか!? 桔梗よ!!」
俺たちの背後から、力強い男の声が響く。
振り向くと、そこには筋骨隆々の爺さんが立っていた。
かなり強そうだ。
しかし、彼の右手は包帯のようなものでグルグル巻きになっているため、その戦闘能力は一時的に低下しているだろう。
「お爺ちゃん!?」
桔梗が驚きの声を上げる。
どうやら、彼女のお爺さんらしい。
「ここでは『師範』と呼べ! このバカ孫めが!!」
「ご、ごめんなさい……。お爺ちゃん」
桔梗は素直に謝る。
彼は桔梗の祖父であると同時に、武神流の師範でもあるのか。
まぁ、潰れかけの道場を1人で守り抜こうとしているあたり、桔梗が師範の血縁者という可能性は高いと思っていた。
「まったく、これだから女は……。我が息子夫婦が男児を産んでおれば、武神流も今頃は安泰だったものを……」
「……お爺ちゃん」
桔梗がうつむく。
俺は少しムッとした。
「聞き捨てなりませんね」
「なんじゃ、お主? たかが新入りの分際で、口を出すでない!」
師範は俺を睨む。
俺は一歩も引かなかった。
「ある程度の事情は知っていますよ。そもそも、あなたが他流派との決闘で大怪我を負ったのが事の発端でしょう? 道場を守れる人間がいないから、桔梗が臨時の師範代になったと理解しています」
「む……。それはそうじゃが……」
「桔梗は頑張っています。道場を守るために、頑張っているんです。敗北者のあなたが『女は……』とか言うべきじゃない」
「ぬぅ……! 敗北者じゃと!? 取り消せぃ!! 今の言葉!!!」
師範代と俺の視線がぶつかり合う。
桜花藩の配下以外と争うつもりはなかったが……。
桔梗のためにも、ここは引き下がれない!
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