「流石の高志様も、単独での那由他藩攻めは難しかったのですよね?」
紅葉が、まるで答えを確信しているかのような口調で言った。
「……ん?」
俺は、ほんの一瞬、思考が止まった。
単独での那由他藩攻めが難しかった?
そんなこと一言も言っていないし、実態ともかけ離れている。
確かに楽ではなかったが、実際には俺一人でも何とかなったのだから。
「単独でのご行動は、あくまで目立たずに情報収集を行うためだったと推察します。私たちが来たからには、もう安心ですよ」
「え……?」
俺の思考が追いつかないうちに、紅葉はさらに続けた。
「まずは桜花藩に帰りましょう。1対1では高志様の足元にも及ばぬ私たちですが、20人もいれば数の力として貢献ができます。ここから先の帰途の安全は保証します。安全な拠点に戻り次第、高志様が収集された情報を元に那由他藩攻めの作戦を練りましょう!」
紅葉はどこか誇らしげに胸を張る。
背後の侍や少女忍者たちも、一斉に頷いた。
まるで「任せてください!」と言わんばかりの自信に満ちた表情だ。
「……あ、あー……」
とりあえず、曖昧な相槌を打つしかなかった。
紅葉の言葉には、明らかに誤解が混じっている。
どうやら、俺が那由他藩の総戦力を前に攻めるのを諦め、撤退してきたと思っているらしい。
……さて、何から説明したものか。
俺が口を開こうとした、その瞬間――
「ところで、そちらの女子供はいったい?」
紅葉の視線が、5人の子供たちに向いた。
彼ら彼女らは、俺のすぐ後ろに並んでいる。
皆、疲れたような表情をしながらも、警戒の色を隠せない目で紅葉たちを見つめていた。
――紅葉も女子供じゃないか?
そんなツッコミを入れるわけにもいかず、俺は軽く肩をすくめる。
ちょうどいい。
話の取っ掛かりができたと考えよう。
「こいつらは、人質さ」
「……人質?」
紅葉が眉をひそめる。
俺は、特に隠すつもりもなく、そのまま説明を続けた。
「実は、那由他藩の攻略には成功してな。その場で、藩主の老僧と話をつけてきた」
「え?」
紅葉がきょとんとした顔になる。
だが、俺は気にせず言葉を続ける。
「今後の支配を確立するために、那由他藩上層部の近親者を人質として5人、連れ帰ることにしたんだ。それがこいつらってわけだ」
「え? えっと……?」
紅葉の表情が、困惑から理解へと変わっていく。
そして――
「「「え、えええええぇっ!?!?」」」
大絶叫。
紅葉だけでなく、背後に控えていた侍や少女忍者たちまで、一斉に口をあんぐりと開けて俺を見た。
その反応を見て、俺は小さく息を吐く。
ま、そういう反応になるよな。
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