翌々日になった。
今日は10月13日だ。
「ミティ。2人でルクアージュをぶらぶらしようか」
「はい! お供致します!」
ミティが元気よくそう返事をする。
「タカシさん、食べ歩きでしたら、わたくしが案内しますが……」
「私もご一緒したいです」
リーゼロッテとサリエがそう言う。
しかしーー。
「まあまあ。今日はそっとしておいてあげてよ」
「そ、そうですね。わたしたちはわたしたちで、観光を楽しみましょう」
モニカとニムがそう言う。
彼女たちとは特に長い付き合いだし、事情は知ってくれている。
今日はミティと2人で過ごしたい日なんだ。
「悪いな。明日には埋め合わせをするから」
「ごゆっくりー」
アイリスの見送りの声を聞きつつ、俺とミティは2人で街に繰り出した。
●●●
俺とミティは、ルクアージュをぶらぶらと歩く。
「ミティ。何かほしいものはあるか?」
「そうですね。あの串焼きを食べてみたいですね」
ミティが露店を指差し、そう言う。
俺は2人分の串焼きを購入し、ミティの分を彼女に渡す。
「これぐらいならいくらでも。しかし、もっと高級なものでもいいぞ?」
「いえ。これで十分です。私が一番ほしいものは、既にいただいていますので」
彼女はそう言って、自身の胸に手を当てる。
つまり、俺からの愛があれば十分ということか。
ずいぶんと嬉しいことを言ってくれる。
「そうか。俺もミティとともに人生を歩めて、とても幸せだよ。今回の件でも、大活躍してくれたな」
「まだまだです。タカシ様にいただいた力をフルに活用すれば、もっと上を目指せるでしょう。今回は、リーゼロッテさんとユナさんが特にご活躍されていましたし……。あと、サリエさんやマリアちゃんも」
リーゼロッテは、通常の加護を付与されて水魔法の達人となった。
ユナは、ファイアードラゴンのテイムに成功してさらなる力を手に入れた。
サリエは治療魔法を集中的に強化して、オールヒールやオーバーヒールで貢献してくれた。
そしてマリアは、生来の生命力や回復力にステータス操作による恩恵が加わり、さながら不死鳥のような活躍を見せてくれた。
「いや、それでもミティは頼りになる。ハンマー、投擲、風魔法はすごいじゃないか。それに、氷化状態から一番早く復帰したのもミティだしな」
氷化状態になり、ティーナの判断でまずは俺1人が解除された。
その次はミリオンズのみんなを同時並行で解除していったのだが、その中で最も早く復帰したのがミティだったのだ。
「あれは……。タカシ様の危機に、一心不乱で……。そもそも、ほとんどはティーナちゃんの力のおかげですし……」
「ミティなら、自力でもいずれ解除できたんじゃないか? ティーナがいなければ、みんな氷牢獄に囚われたままだっただろう。その場合は、もしかするとミティが突破口になった可能性もある。すごいよ、ミティは」
彼女が豪腕により強引に氷化状態を解除する姿が、目に浮かぶようである。
「えへへ……。タカシ様に褒めていただき、うれしいです!」
ミティが笑顔でそう言う。
「それで、本当にほしいものはないのか? ミティを幸せにすると言っておきながら、他の女性がどんどん増えて大変申し訳なく思っているんだ。俺にできることなら、何でも言ってほしい」
「では、私1人に絞ってください」
「そ、それはーー」
マズい……。
ミティ1人を取るか、他のみんなを取るか。
究極の選択だ。
ぐぬぬ。
「冗談ですよ。偉大なるタカシ様には、私1人では釣り合いません。お力を存分に活用するためにも、妻がたくさんいても仕方ないでしょう」
「す、すまないな」
俺はホッと胸をなでおろす。
「1つワガママを言わせていただくならば……。子どもがほしいです。なるべく早めに」
「ああ。しかし、普段からやることはやっているが……」
俺とミティは、特に避妊をしているわけではない。
ちなみに、アイリスやモニカとも同様だ。
いつ妊娠してもおかしくない。
残念ながら、今のところその兆しはないが。
「そこで、このアイテムです。むんっ!」
ミティがアイテムバッグから何かを取り出す。
小さなビンに、液体が入っている。
ポーションか何かか?
「それは?」
「牢にいる千さんからもらった、秘薬です。妊娠の確率が上がるとか」
そんな秘薬があるとは。
地球で不妊に悩む夫婦にもわけてあげたい薬である。
「安全性は確かなのだろうか?」
俺はそう問う。
地球で見慣れない薬だし、少し尻込みする。
……いや、今さらか。
キズが治るポーションや、地球にいない動植物をさんざん食べてきた。
地球で見慣れない薬だからといって、極端に忌避する必要もないだろう。
今さら警戒しても、もう遅い。
「千さんが言うには、ヤマト連邦の王族が飲むこともある秘薬だそうです。安全性は確かでしょう。アイリスさんやモニカさんにもわけてあげる予定です」
「なるほど。千の言うことが本当であれば、安全そうだな」
彼女は信用に足るだろうか。
俺やミティを毒薬で暗殺して、どさくさ紛れにファイアードラゴンの魔石を回収するという暴挙に出る可能性はなくもないか?
とはいえ、彼女は牢にて勾留中だ。
俺とミティの暗殺に成功したとしても、その後に牢番の目をくぐり抜けて脱獄するのは簡単なことではない。
それに、残されたミリオンズのみんなやラスターレイン伯爵家からの報復はあるだろうし、もちろんドラちゃん自身の抵抗も激しいものになる。
千がそのような分の悪い賭けに出る可能性は低いと思われる。
「あの女は気に入らないと思っていましたが、これが本物なら認識を改めようと思っています」
ミティがそう言う。
地味に怖いな。
女同士、敵視していたのか。
もしかすると、俺が知らないだけでミリオンズ内にも多少の仲の良し悪しはあるのかもしれない。
人間だし、どうしても相性というものはある。
こればかりは仕方ない。
だが、できればみんなで仲良くしてほしいところだ。
それに、千と仲良くするのも悪くないと思う。
彼女の言葉を信じるならば、今後の彼女はサザリアナ王国内で活動を予定していない。
ヤマト連邦に帰って、ファイアードラゴンのツメと鱗を利用して何やらするつもりらしい。
蓮華陣営との対立が少し気になるところではあるが、基本的には千がヤマト連邦内で何をしようと俺たちミリオンズの知ったことではない。
もはや、彼女と対立する可能性は低い。
そういった事情を千自身も考えているのか、実は彼女から俺への忠義度もぼちぼちである。
具体的には、20代前半。
少し前まで敵対していたことを考えると、十分な数字だろう。
「ふむ。ならば、その薬を飲んで今日は楽しむとしようか」
「はい! がんばって、タカシ様を満足させてみせます!」
ミティがそう意気込む。
その後も俺たちはルクアージュの街でデートを続けた。
そして、その日の夜は今まで以上にハッスルしたものとなった。
お互いに激しい攻防を繰り広げる。
戦いは既に終盤だ。
「はあ、はあ……。タ、タカシ様ぁ」
俺の下でミティが喘ぐ。
「うおおおお! 中に出すぞミティ! 妊娠しろォ!!!」
やべ。
エロ小説みたいなセリフを吐いてしまった。
ドン引きされてしまうかと焦ったがーー。
「えへへ。タカシ様との子ども……。楽しみです! とてもすばらしい結婚記念日になりました!」
ミティが幸せそうにそう言う。
満足してくれたのなら何よりだ。
「ああ。俺もミティと結婚してよかった。元気な子どもを生んでくれ。幸せな家庭を築こう」
これで無事に妊娠していたら、あと1年もしないうちに俺も父親となる。
より一層、気を引き締めていかねばならない。
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