俺は『灰狼団』を名乗る盗賊たちを無力化し、捕らえた。
俺たちハイブリッジ男爵家一行は、改めて中継の村に向かう。
だが、その門は固く閉ざされていた。
「おかしいですね。盗賊たちを撃破した今、村の人たちには歓迎されるはずなのですが……」
ミティが首を傾げる。
確かに妙だ。
行きに立ち寄った際には普通に歓迎してくれたのに。
「おーい! 誰かいないか! 俺だ! タカシ=ハイブリッジだ!」
俺は声を張り上げて呼びかける。
すると――
「は、ハイブリッジ騎士爵様!?」
門の向こうから、男の声が聞こえてきた。
俺のおぼろげな記憶によれば、この声は村長のものだ。
「門を開けてくれないか! この村で休憩したいのだ!」
「は、ははー! 直ちに!!」
慌ただしく動く音。
そして――
「失礼しました! どうぞ、こちらへ! さぁ、早く!!」
門が開かれた。
何やら慌ただしい様子だ。
俺たちは村の中に入る。
「迎え入れご苦労。今回も、一晩ここで休ませて貰うぞ」
「もちろんでございます! ……と言いたいところなのですが……」
「何か問題でも?」
「実は、この村は盗賊に襲撃されたばかりなのでございます」
村長がそう言う。
まぁ、俺は気配察知の能力で何となくは分かっていたけどな。
「盗賊か。それは物騒だな。しかしその割に、みんな自由にしているようだが?」
村長は俺の目の前で普通に立っている。
離れたところにある村長宅からこちらを覗くのは、幼女ラフィーナだ。
また、門のところには武装した村人たちの姿もある。
「はっ……。それが、奴らは突然この村を出ていきまして……。何やら、標的が来たとか何とか言っておりました」
「ほう。それで、お前たちは大丈夫だったのか? ケガ人はいないのか?」
「はい、幸いにも……。しかし、油断は出来ません。いつ奴らが戻ってくるかも分かりませんし……」
そういうことか。
『灰狼団』や村長の言葉から、話の筋道が見えてきたな。
奴らの狙いは始めから俺だったのだ。
いや、もう少し正確に言えば、俺が捕らえてハイブリッジ男爵領に連れていく途中の『黒狼団』か。
俺を撃破して、『黒狼団』を解放する。
そして、この村から略奪した少しばかりの財によって逃亡して立て直すつもりだったのだろう。
「ふむ。それなら安心しろ。盗賊の脅威は去った」
「ほ、本当でございますか!?」
村長は目を丸くする。
「ああ。この俺が奴らを無力化して捕らえておいた。ほら、見てみろ」
俺は、背後を振り返り指差す。
そこには、捕まった『灰狼団』の姿があった。
「な、なんと……!! さすがハイブリッジ騎士爵様でございます!」
村長が感嘆の声を上げる。
彼の忠義度が微増する。
(ふむ。せっかく村を救ったのに、この程度の上昇か……)
村長に加護(小)を付与できる日は遠そうだ。
まぁ、忠義度だけを目当てに生きているわけでもないし、別にいいのだが。
やはり、年齢が俺よりも上で、俺と同性で、責任ある立場の人間の忠義度は上がりにくい。
ここは――
「村長。せっかくだし、村の者たちにも知らせてやったらいい。盗賊たちの脅威は去った、とな」
「かしこまりました! ――おい、皆の衆! 今すぐ広場に集まってくれ!」
村長が村人たちに呼びかける。
すると、村人たちがゾロゾロと集まってきた。
その中には、ラフィーナの姿もある。
「聞いてくれ! 盗賊の脅威は去った! こちらにおられるハイブリッジ騎士爵様が無力化してくださったのだ!!」
村長が叫ぶ。
すると、村人たちは大騒ぎになった。
「おお、これで安心だ!」
「ありがとうございます!」
「さすがはハイブリッジ卿です!!」
「村は救われました!」
「ばんざーい!」
村人たちが次々と感謝の声を上げていく。
「ほ、本当にすごいです……。あんなに怖い人たちに勝ったなんて……」
ラフィーナが驚きの声を上げた。
「はっはっは! もっと褒めていいんだぞ?」
俺は笑いながら言う。
すると――
「あ、あの……! 村を救っていただき、ありがとうございました!」
ラフィーナは俺の前に来て、深々と頭を下げた。
幼女なのに、礼儀正しいな。
村長の孫娘だし、将来は村を引っ張っていく人材になるかもしれない。
「いいってことさ」
「ハイブリッジ騎士爵様は、本当に凄いです。まるで物語に出る勇者様みたい……」
ラフィーナが尊敬の目を向ける。
「ははは! そうか? そんな風に言われると照れるね」
俺は頭を掻いた。
「はい! 私は将来、ハイブリッジ騎士爵様に相応しい女性になってみせます! だから、そのときは……」
そこまで言って、彼女は恥ずかしそうにして俯いた。
幼女なのに、ませてるな。
適当にはぐらかしてもいいのだが、忠義度のためにもここは――
「ああ、分かっているとも。いつかきっと、迎えに来るよ」
「――っ! は、はい! ありがとうございます!」
ラフィーナの忠義度が上昇した。
幼女でも、やはり一人の人間だ。
こうして真心込めて接することで、忠義度は上がっていく。
「だが、一つだけ訂正することがあるな」
「訂正、ですか?」
「ああ。村長たちも聞いてくれ! みんなに伝えることがある!」
俺は叫ぶ。
村長やラフィーナを含め、村人たち全員の視線が俺に集まったのだった。
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