馬車の護衛をニムに任せ、ゴブリンのところへ向かう。
俺、ミティ、アイリス、モニカの4人だ。
5体のゴブリンと対峙する。
奴らもこちらに気づき、警戒の態勢をとる。
アイリスが聖魔法の詠唱を開始する。
「……聖なる鎖よ。敵を縛り、捕らえよ。セイクリッドチェーン!」
銀色に光り輝く鎖が現れ、1体のゴブリンが縛り上げられる。
「ぎ、ぎぃぃ!」
ゴブリンがうめき声を上げる。
縛られたゴブリンは、これで戦闘不能となった。
しかし、ゴブリンはあと4体残っている。
奴らがこちらに駆け寄ってくる。
モニカが雷魔法の詠唱を開始する。
「……我が敵を撃て! ライトニングブラスト!」
モニカの手のひらから電撃が放たれる。
電撃がゴブリンを貫く。
こちらに駆け寄ってきていた4体と、セイクリッドチェーンで縛り上げられていた1体。
まとめて大ダメージを与え、討伐した。
これで戦闘終了だ。
「なるほど。両方とも強力な魔法だな」
俺はそう言う。
ゴブリンの死体に近づき、確認する。
セイクリッドチェーンは、発動後には無に還るようだ。
もう残っていない。
これを利用しての金属の生産はできなさそうだ。
ゴブリンの死体をアイテムルームに収納する。
「そうだね。ただ、さっきも言っていたけど、ボクのセイクリッドチェーンは普段はあまり使わないかもね」
確かに。
拘束するだけの魔法は、使いどころに欠ける。
今回のようにゴブリン程度が相手なら、普通の攻撃魔法を使ったほうが手っ取り早い。
しかし、セイクリッドチェーンにはまた別の使い道がある。
「その件だが。セイクリッドチェーンを、俺に放ってみてもらえないか?」
「え? タカシにはそういう趣味が?」
アイリスがドン引きした顔でそう言う。
「おっしゃっていただければ、私がさせていただきましたのに」
ミティがそう言う。
「ううん。ボク、がんばるよ。タカシがどんな趣味でも受け入れる。縛るほうでも、縛られるほうでも」
アイリスが覚悟を決めた顔をして、そう言う。
「いや。待て待て。何か誤解がある」
俺は慌ててそう言う。
かつてのロリコン疑惑に加えて、新たにSM好き疑惑が浮上してしまった。
俺に対する評価が変な方向に突っ走っている気がする。
「縛る力がどの程度なのか、体験しておこうと思っただけだ」
俺はそう弁解する。
「ああ。そういうことね」
アイリスがそう言う。
「盗賊などを縛って無力化したと思って油断したところに、反撃されたりしたらマズいからな」
縛る力によっては、一度縛った盗賊が拘束を解いてしまう可能性がある。
俺の言葉に、アイリスたちは納得してくれたようだ。
アイリスが聖魔法の詠唱を始める。
「……聖なる鎖よ。敵を縛り、捕らえよ。セイクリッドチェーン!」
「ぬ。うおおっ!?」
銀色に光り輝く鎖が現れ、俺を縛る。
これは。
「なるほど。結構縛る力が強いな。……ふんっ!」
俺は、力を入れて拘束を解こうとする。
しかし、びくともしない。
俺の力では無理そうだ。
俺は、腕力強化レベル1と肉体強化レベル3を取得済みだ。
一般人よりもはるかに力がある。
そんな俺でもセイクリッドチェーンの拘束を解くことは難しい。
となると、よほど力自慢の犯罪者でもない限り、拘束を解くことはできないだろう。
リトルベアあたりを拘束できるかは微妙なところだが。
アイリスが魔法を解除し、俺の拘束を解く。
続いて、ミティとモニカへも試してもらうことになった。
銀色の鎖が2人を縛る。
「やあんっ」
「んんっ」
ミティとモニカが色っぽい声をあげる。
これは……。
なかなか扇情的な光景だ。
これはこれでありだな!
モニカは、俺と同じく、拘束を解くことはできないようだ。
しかし、ミティは。
「ぬぬぬ……。むんっ!」
ミティが掛け声とともに、力を込める。
銀色の鎖が砕け散った。
砕け散った鎖は、無に還った。
「ええ……。セイクリッドチェーンは、そんなに簡単に解けるものじゃないはずなんだけどな……」
アイリスがドン引きしている。
ステータス操作により魔法を取得した際には、魔法のイメージが頭に流れ込んでくる。
アイリスの頭の中には、俺たち説明してくれたこと以上の詳細なイメージがあるのだろう。
そのイメージを、ミティの豪腕が上回ったというところか。
アイリスがモニカの拘束を解く。
何か考え込んでいる。
「2人相手の同時発動だから、出力が控えめだったのかな。それとも、ミティが善人だから……?」
アイリスが何やらブツブツつぶやいている。
「善人相手だと、出力が下がるのか?」
「うん。そのはずだよ。取得してもらったときのイメージでもそうだったし、教会でもそう教わったこともあるし」
なるほど。
セイクリッドチェーンがどういう魔法か、あらかじめ教会で概要を教えてもらっていたようだ。
そういえば、武闘や治療魔法についても、教会で教わることができると言っていたな。
聖ミリアリア統一教会は、信徒に対してしっかりと体系的な教育を施しているわけか。
……ん?
アイリスが、ジト目でこちらを見ている。
「タカシって、もしかして何かの罪を犯したことがある?」
「い、いや。そんなことはないと思うが」
マズいぞ。
セイクリッドチェーンが俺によく効いていたからか。
ロリコン疑惑、SM好き疑惑に加えて、犯罪者疑惑まで浮上してしまった。
冤罪だ。
俺はまっとうな善人だ。
少なくともこの世界に転移してからは罪を犯していないはず。
日本にいたときに、俺がやった犯罪行為と言えば。
せいぜい、ポイ捨てや立ちションぐらいだ。
ダメじゃねえか。
くっ。
こんなことなら、日本にいたときから善行を積んでおくんだった。
中学生、高校生のときぐらいまでは品行方正だったんだけどな。
自分で言うのも何だが。
「ま、まあいいよ。タカシが昔悪いことをしていたとしても、私を助けてくれた事実は変わらないから。私はタカシの味方だよ」
モニカがそう言う。
ありがてえ、ありがてえ。
「ま、いいか。ボクは審問官でもないし、昔のことは気にしないでおくよ」
アイリスがそう言う。
心を入れ替えて善人になるから、昔の罪は許してくれ。
「私は、ずっとタカシ様のそばにいます! 世界がタカシ様の敵に回ろうとも!」
ミティがそう言う。
彼女は、本当にずっと俺の味方でいてくれそうな気がする。
例えば、俺がチートの力に溺れて暴虐の限りを尽くすようになったとして。
ミティは、俺といっしょにどこまでも堕ちていってくれそうだ。
一方で、アイリスは早い段階で俺をたしなめてくれるだろう。
モニカはその中間ぐらいかな。
たぶんニムもそうだろう。
まあ、こういうのはどの方向性が最も良いか、明確な答えはない。
また別の例え。
自分の子どもが無職の引きこもりになったとして。
早い段階で部屋から叩き出すのは1つの親の愛だ。
一方で、とことん甘やかしてずっと養うのも1つの親の愛だ。
前者の手法を選択したとして、結果としてうまくいく可能性もあれば、追い詰められて自殺などしてしまう可能性もある。
後者の手法を選択したとして、結果としていずれ自発的に部屋を出てくる可能性もあれば、ずっと引きこもり続けてしまう可能性もある。
明確な最適解はない。
「ありがとう、みんな。心を入れ替えて善行に励むようにするよ」
俺は気を取り直して、みんなにそう宣言する。
軽い気持ちで聖魔法の試し打ちをしてもらっただけなのに、思わぬ事態になってしまった。
アイリス以外の聖魔法の使い手には、今後注意する必要があるかもしれない。
馬車に戻り、ニムたちと合流する。
特に大事はなかったようだ。
再びボフォイの街に向けて出発する。
ボフォイの街にはもう少しで着くだろう。
馬車は順調に道を進んでいく。
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