「……お主、その翼は」
「あ、うん。マリアはね、回復能力がすごいらしくて――」
「炎と共に再生したぞ!? まさか……不死鳥!?」
「不死川に伝わる数々の伝承……。その中でも特に有名な不死鳥伝説! あれは本当だったのか!?」
老人と少女――マリアの会話に割り込むようにして、若者たちが騒ぎ出す。
実際には、回復したのは自前の驚異的な自己治癒能力であり、火を纏ったのは火魔法のアレンジだ。
基本的には別個の能力である。
ただ、どちらも『不死鳥』の伝説と合致するため、若者たちの勘違いも無理からぬことではあった。
「……若造たちが騒がしいの。ところでお主、行く宛はあるのか? 中州なんかで居眠りしておったようじゃが……」
「えっとね。南の方に行きたいんだけど……もうちょっと元気になってからかなっ。なんか、上手く飛べなくなっちゃって……」
マリアが告げる。
大和連邦の各藩は、多かれ少なかれ結界妖術で守られている。
桜花藩に降り立ったタカシの重力魔法が不調だったように、不死川藩にいる彼女の重力魔法もまた不調だった。
また、生来の飛行能力も阻害されている。
ハーピィとオーガのハーフである彼女にとって、飛行ではなく徒歩で遠路を行くのは現実的な選択ではなかった。
「そうか。ならば、村へ来られるか?」
「えっ!? いいの!?」
「うむ。儂の命の恩人じゃし、若造の怪我を治療してもらった恩もあるからの」
「ありがとうっ!」
マリアは満面の笑みを浮かべた。
彼女や老人たちは川の中州から、村へと向けて移動を始める。
空を飛ばずとも、数分から数十分ぐらいの徒歩移動ならば今の彼女にも可能だ。
「む? そういえば、まだお主の名をちゃんとは聞いとらんかったの。確か、まりあ……とか言ったか。漢字は……」
「マリアの名前は漢字じゃないよ?」
「漢字ではない?」
「あっ! 違った! ええっと……漢字では……そう、こう書くの!!」
マリアはそう言いつつ、地面を指でなぞる。
サザリアナ王国から大和連邦までの移動中やそれ以前に、彼女は蓮華などから漢字を習っていた。
簡単な漢字はマスター済み。
その他、自分や仲間の名前に当てる漢字も読み書きできる。
彼女が地面に書いた漢字は……『舞燐亜』だ。
「なるほど、舞燐亜……か。まりあという名前はたまに聞くが、少し珍しい当て字じゃな。ま、火を纏って空を舞うお主にはぴったりの名前じゃが」
「ありがとうっ! それで、お爺ちゃんの名前は?」
「そうじゃな。では、こちらも自己紹介しておこうか。儂は――」
マリア改め舞燐亜は、老人たちの案内に従って村へと向かっていく。
――その後、彼女は村人たちの傷や病を治療して回り、大いに感謝された。
元『不死武士隊』の老人の古傷も、例外ではない。
マリアは全盛期の力をいくらか取り戻した老人と共に、近場の妖獣を討伐して回り……。
不死鳥伝説を体現した少女として名を馳せるのだが、それはもう少し先の話である。
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