「はぁ、はぁ……! うぅ、どうしてこんなことに……」
俺は森の中を疾走していた。
全力に近いスピードで走り続けている。
すでに魔力はほとんど尽きていた。
もう体力も限界が近い。
だが、足を止めるわけにはいかなかった。
後ろから恐ろしい顔をした少女たちが追いかけてきているからだ。
「タカシ様……。信じていたのに、ひどいです……」
「ボクを好きって言ってこれたのは嘘だったの……?」
「恨めしや……。子どもまで生ませて、こんな仕打ちをするなんて……」
ミティ、アイリス、モニカが俺を恨めしそうな顔で見てくる。
彼女たちの表情には、深い恨みと憎しみが込められているのがよくわかった。
「違うんだ! 話を聞いてくれ!!」
俺はそう口にする。
しかし――
「い、言い訳は聞きたくないです……」
「ふふ……。大人しく観念しなさい……」
「タカシお兄ちゃん……。はんせーしてもらうよ……」
ニム、ユナ、マリアが静かに怒りの声を上げる。
確かに俺は、浮気三昧だった。
しかし、彼女たちがここまで怒り狂うとは……。
今まで、そんな様子は微塵もなかった。
愛する妻たちが、まるで別人のようだ。
「お、落ち着いてくれ! とりあえず話を……」
俺は必死の声を上げる。
だが、彼女たちは聞く耳を持たない。
「問答無用です……」
「わたくしたちを悲しませた罪……、万死に値しますわ……」
「切り捨てるでござる……」
「弁解の余地はありません……」
サリエ、リーゼロッテ、蓮華、レインまでもが、怒りと悲しみの混じった声を出していた。
そして、俺を取り囲み始める。
(このままでは……)
俺は絶体絶命の危機を感じる。
1対1なら、チートの恩恵を最も多大に受けている俺が有利だろう。
だが、さすがに1対10は……。
体力も魔力もほとんど残っていない今の俺に、この状況はキツイ。
「ピピッ……。マスターの命運は尽きました……」
「私のブレスで……火葬してあげるね……」
ティーナとドラちゃんまでが、怒りに燃えた目を俺に向けてきた。
彼女たちの言葉には、冗談など微塵も含まれていないことが分かる。
(これは、本当にマズい……)
俺は今更ながらに自分の置かれた状況を認識する。
そして、命の危機を感じた。
「お、落ち着け……。話せば分かる……」
俺は必死に説得を試みるが――
「おにーさん……、問答無用だよ……。男に騙された女の恨み……思い知れ……!」
ゆーちゃんが俺に迫ってきた。
彼女は怨霊のようなオーラを出している。
怖っ……。
「ま、待ってくれ! 少しだけでも話を――」
「女たらしと浮気者には、死あるのみ……! 恨めしや~~~!!!」
「ぎゃあああぁぁあっ!?」
俺は絶叫する。
ゆーちゃんの顔が視界いっぱいに広がったかと思うと、すぐに暗転した。
そして俺の意識は闇へと落ちていった……。
「――はっ! こ、ここは……?」
俺は目を覚ました。
辺りを見回すと、薄暗い部屋のようだ。
上方から太陽の柔らかな日差しが差し込んでいる。
(ここはどこだ?)
俺は必死に記憶を辿る。
確か俺たちは――
「あ、タカシ様! ご起床されましたか!」
「タカシ、おはよー」
「ん? あ……」
俺が声の方へ視線を向けると、そこにはミティとアイリスの姿があった。
2人とも、活動的な普段着である。
(あ、そうか……)
そこで俺は状況を思い出した。
俺たちミリオンズは、ヤマト連邦に向けて隠密小型船で移動中だったのだ。
その途中で雷雲が発生したため、潜水機能を使ってやり過ごすことになった。
潜水中はやることも限られるので、ヤッていたんだったな。
俺が寝ている間に他のみんなは起床し、潜水状態を解除して海上に戻っていたらしい。
「2人とも……。浮気性の俺ですまない……。愛する妻がいながら、俺という奴は……」
俺は謝罪する。
さっきの惨劇は夢だ。
しかし、いつ現実になってもおかしくない内容にも思えた。
「え? 今さら?」
「偉大なるタカシ様から、謝罪していただくようなことではありませんよ」
アイリスとミティの反応は淡白なものだった。
夢で見たような、怒りと悲しみに満ちた顔はしていない。
「そ、そうか? 怒ってないのか?」
「怒る必要ある? ボクたちを捨てたならまだしも、他の人に手を出すくらい……」
「私やミカを愛してくれるのなら、お妾さんがたくさんいても問題ありません!」
アイリスとミティが明るい声で言う。
2人とも、いつもと変わらない様子だ。
「……そうか。ありがとう、2人とも……」
俺は彼女たちの対応に、感動した。
(そうだよな……。ミティとアイリスが俺を見放すわけがないよな……)
浮気を繰り返す俺を、受け入れてくれるとは……。
感謝しかない。
その後も俺は、モニカやニムを始めとした他のメンバーとも顔を合わせたが、彼女たちも怒っていなかった。
むしろ、友好的に接してくれた。
俺としては嬉しい限りである。
しかしあの夢が正夢になることは避けたいので、その日はずっとみんなのご機嫌取りを行った。
こうして俺たちを乗せた潜水艇は、ヤマト連邦へ向けて進んでいったのだった。
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