「これは……」
「……どうやら歌声のようですが」
謎の声に導かれるように、俺たちはゆっくりと歩き出す。
神社の敷地の奥へと歩を進めると、視界が開けた。
広大な広場。
そこには大勢の人々が集まり、中央には、幾人もの巫女たちが並び立っていた。
「……あれは、巫女か」
「そのようですね……」
白と赤の衣をまとった彼女たちは、一糸乱れぬ動きで儀式の舞を舞いながら、透き通るような歌声を紡ぎ続けている。
荘厳な旋律が、空間を支配していた。
澄んだ声が幾重にも折り重なり、まるで天と地を結ぶ糸のように響く。
聞いているだけで、心の奥が揺さぶられるような感覚に陥る。
「一体、これはどういう状況だ?」
思わず呟いた。
目の前に広がるのは、炎の灯る祭壇と、静かに揺れる幾重もの白布。
空には薄い雲がたなびき、月光が柔らかに差し込んでいる。
周囲を取り囲むように立つ巫女たちは、まるで時間そのものに溶け込んでしまったかのように、無言のまま佇んでいた。
その中心で、荘厳な唄が紡がれていく。
この儀式は何を意味するのか?
偶然の巡り合わせか、それとも俺たちを迎え入れるためのものなのか――。
だが、そんな疑問を抱くよりも早く、俺はただ目の前の光景に圧倒されていた。
「高志様……」
紅葉の声が微かに震えている。
彼女の瞳は、炎のゆらめきを映しながらも、何かに強く惹かれているようだった。
「わかっている。もう少し様子を見てみよう」
巫女たちの歌声は、まるで一つの波となって空間に広がっていく。
その音は、澄み切った水のように透明で、耳に届くと同時に心の奥底まで染み込んでくるようだった。
それは、ただの歌ではない。
何かに強く干渉する力を持っている――そう直感した。
周囲の木々や山々が、その響きに共鳴するかのように、風がさざめく。
「これは……なんだか……」
「……ああ、アレだな……」
紅葉と俺は、ほぼ同時に呟いた。
考えていることは同じらしい。
「心が洗われる気がしますね」
「気に食わない歌声だな」
「「……え?」」
俺たちの間に、微妙な空気が流れた。
おかしいな?
これまでの旅で、俺と紅葉は何度も同じ景色を見て、同じ感動を分かち合ってきたはずだ。
なのに、今この瞬間、俺たちの心は明確に分かたれている……。
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