ダンジョン攻略メンバーの選別試験が行われているところだ。
Cブロックの選別試験が終わった。
次はDブロックだ。
「さて……。いよいよ俺たちの出番だな」
「そうですね! 私たちの力を見せつけてやりましょう! むんっ!」
ミティが力強く意気込む。
「少し緊張しますね……」
「ボクたちでフォローするよ。落ち着いていつも通り戦えれば、きっと評価してもらえると思う」
サリエに対し、アイリスがそう声を掛ける。
そんなことを話しているうちに、試合が始まった。
「よっしゃあ! お前ら、わかってんな!?」
「おおよ! こういうバトルロワイヤルでは、有力候補から潰すのが定石だ!」
「けけけ。高名なミリオンズとやらの実力がどれほどのもんか、見せてもらうぜ!」
なんと、試合開始と同時に多数の冒険者がこちらに押し寄せてきた。
Dブロック全体の半分ほどだろうか。
「麻痺しちまいな! パラライズ!」
「ぶちかませ! ストーンキャノン!」
初級の雷魔法と、投石だ。
両方とも、なかなか鋭い攻撃だ。
俺たちミリオンズは、やつらの攻撃を軽くかわす。
だがーー。
「っしゃあ! 後に続けぇ!」
「このまま決めるぜ!」
他の者がさらに畳み掛けようとしている。
彼らは一人ひとりが強い。
Cランク冒険者がゴロゴロいる。
これだけの強者たちが俺たちを集中狙いするとは……。
それだけミリオンズが注目されているということか。
そういえば、Bブロックではベアトリクス第三王女が集中狙いされていたな。
「盛り上がっているところ悪いが……。空気を……読む気はない!! いくぞ、みんな!」
俺はそう言う。
それを合図として、ミリオンズのみんなが戦闘態勢を整えていく。
「術式纏装”雷天霹靂(らいてんへきれき)”」
「……従順なる土の兵士よ。我が求めに生まれ出よ。クリエイト・ゴーレム!」
「赤狼族獣化!」
モニカは雷魔法を取り込み自身の力に変える技。
ニムは巨大なゴーレムの生成。
そして、ユナは獣化を発動する。
獣化とは言っても、狼耳や犬歯が生える程度だが。
ユナが赤狼族である件については、そろそろ公表してもいい頃合いではないかと相談済みである。
あまり早く公表しすぎると、奴隷狩りに狙われるリスクがある。
しかしずっと隠し続けると、赤狼族という種族の知名度を上げる目的を達成できない。
俺たちがBランクパーティとして名声を上げつつある今が、いいタイミングだろう。
攻撃準備を完了させた3人が、こちらに押し寄せてきた冒険者たちと激突する。
「ワン・オー・セブン・マシンガン!!!」
「カタストロフ・クエイク!!!」
「炎精の舞!!!」
モニカが目にも留まらぬ蹴りの連撃を放つ。
ニムの巨大なゴーレムが打ち下ろすようなパンチを放つ。
ユナが獣化状態による軽やかな身のこなしで、敵を翻弄する。
「「「ぎゃあああっ!」」」
冒険者たちに確かなダメージを負った。
何人かは攻撃の衝撃で海に落ちたが、残りはまだステージ上で戦闘可能な状態だ。
「よし。俺たちもいくぞ、ミティ!」
「わかりました!」
俺とミティは風魔法の詠唱を開始する。
「「……風よ荒れ狂え。ジェットストーム!」」
ブオンッ!
強烈な竜巻がステージ上の一角に巻き起こる。
「「ぬあああぁっ!」」
残っていた冒険者たちは上空に吹き飛びーー。
バシャーン!
海に落ちてリタイアとなった。
何とか、最初の波は乗り越えたな。
「この戦いには、新興貴族家としての誇りがかかっているんだ……」
ここであっさり負けるようだと、他の冒険者や貴族からなめられるだろうし、王家からの覚えも悪くなるだろう。
踏ん張りどころだ。
「く……。せめて、1人だけでも……」
「嬢ちゃんたち、覚悟しな!」
後方からそんな声が聞こえる。
俺は慌てて振り向く。
「むっ! マリアと戦うの? 負けないよ!」
「私も負けません!」
マリアとサリエがそう言う。
どうやら、俺たちの攻撃をかろうじて避けた2人の冒険者が、いつの間にか後ろに回り込んでいたようだ。
あの攻撃を避け、気取られずに後ろに回り込むとは……。
やはり、この選別試験の参加者は一人ひとりが強い。
だがーー。
「マリア・キーック!」
マリアが両足での強烈なキックを放つ。
上半身を重力魔法で浮かせることで、片足ではなく両足でのキックが可能となっている。
「五月雨連棍(さみだれれんこん)!」
サリエが棒術で攻撃する。
彼女の棒術はレベル2だし、加護による基礎ステータスの向上もある。
近接戦闘においても、決して油断できない戦闘能力を持つ。
「ぐあっ!」
「バ、バカな……。駆け出しの新人ではなかったのか……?」
2人の冒険者はそう言って、ダウンした。
マリアとサリエの戦闘能力を過小評価しているところに思わぬ反撃をもらい、ダメージは大きかったのだろう。
それに、その前の俺たちの攻撃により多少のダメージを負っていたのもあるかもしれない。
これで、俺たちに向かってきていた男たちは全滅した。
残るはーー。
「へえ~。ずいぶんと強いんだねえ。フレンダちゃんのお友だちが、全滅なんて~」
この少女だ。
男たちの後方から、ずっと観察するような目で見ていたのだ。
男たちも強かったが、この少女はさらに強そうな空気がある。
いったい何者だ?
いや、そんなことよりも……。
「こ、この少女は……」
「知っているのですか? タカシ様」
「かわいい、いやこれは……。すごくかわいい!」
ポカッ。
ミティとアイリスが、俺の頭を小突く。
「タカシ様。女好きも大概にしてください!」
ミティがそう苦言を呈する。
「……はっ! お、俺はいったい何を?」
何やら正気を失っていたようだ。
俺にはミティ、アイリス、モニカというかわいい妻たちがいる。
それに、ニム、ユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテという魅力的な女性も身近に存在する。
多少かわいいぐらいの見知らぬ少女がいたぐらいで、俺が正気を失うとは……。
「へえ~。フレンダちゃんの魅了に抗うんだ。さすがだね~」
魅了だと?
単純に、かわいさで男を惑わしているだけか?
それともーー。
「五光一閃!!!」
カッ!
アイリスが超速でフレンダに攻撃を繰り出す。
「きゃっ! あう~」
フレンダがアイリスの攻撃により弾き飛ばされる。
バシャーン!
フレンダはあっさりと場外の海に落ちた。
彼女はこれでリタイアだ。
あの強者感は何だったんだ?
アイリスがこちらに戻ってくる。
「ふう。危ないところだった」
「そうか? アイリスはあっさりと勝ったじゃないか。余裕だろう」
逆に、フレンダの見せ場を奪って少し申し訳ないぐらいだ。
「ううん、そうでもないよ。彼女は”魅了”の二つ名を持つBランク冒険者。確か、フレンダ=ハートフィールドだったかな? タカシが魅了されたら、マズイところだった」
アイリスがそう言う。
冒険者としても武闘神官としても経験豊富な彼女は、他の強者についてもよく知ってくれている。
フレンダが油断ならない強者だったからこそ、五光一閃を用いて短期で勝負をつけたといったところか。
五光一閃は、闘気や聖気の消耗が激しい。
使うべきときを適切に判断できるアイリスは、さすがだ。
「そうか。アイリスのおかげで難を逃れたな。それに他のみんなも、見事な活躍だった。ありがとう」
俺はそう言う。
「ふふん。まだまだやるわよ!」
「そうですね。私たちが戦っている間にも、他のところで戦いは進んでいたようです」
ミティがそう言う。
俺はステージ上の様子を改めて確認する。
もうずいぶんと脱落者が出ている。
俺たちの対角あたりに、1つのパーティが残っているだけだ。
「ふん。少しは骨のあるやつが残っているようだな」
「またあいつらですか……。今度こそ、私めが勝利を収めてご覧に入れましょう」
「私もがんばるぞー! がうっ!」
見覚えのある男。
そして、それに従う数人の女性冒険者。
彼らとまた相まみえることになるとはな。
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