「がっはっは! なかなかやるのう!!」
「はっはっは! そちらこそ、左手一本なのに素晴らしい剣捌きでしたよ!!」
師範と俺は、お互いの健闘を称え合う。
試合は俺の勝利に終わった。
とはいえ、武神流の師範代というだけあって、あの爺さんは強かった。
戦っている内にモヤモヤも薄れて、いつの間にか打ち解けてしまっている。
「はぁ……。まさかお爺ちゃんに勝っちゃうなんて……」
桔梗が呆然とした表情で呟く。
俺は彼女の方を振り返った。
「どうだ? 俺はなかなか強いだろう?」
「……うん。びっくりした。私との鍛錬では手を抜いていたの……?」
「いや、剣術としては本気で取り組んでいたさ。身体能力を強化する類の武技を使っていなかっただけだ。俺は、あくまで剣術の鍛錬をするためにこの道場に来ているからな」
「……そう。なんか、ずるい」
「え?」
俺は思わず聞き返す。
すると、桔梗は顔を真っ赤にして抗議してきた。
「高志くんは優しくて筋がいいけど、ちょっと頼りない感じだった。でも、いざという時はすっごく強くて頼りになるなんて……。ずるい」
「い、いや……。ずるいとか言われても……」
俺は戸惑う。
そんな俺に、師範が話しかけてきた。
「おい、お主」
「なんですか?」
「孫はいつ見せてくれるんじゃ?」
「……え? あの……?」
何の話だ?
俺の頭の中で『?』マークが飛び回る。
そんな俺を見て、師範は桔梗へ矛先を変える。
「なんじゃ? まだ子作りしとらんのか?」
「な、何を言い出すの!? お爺ちゃん!?」
桔梗が顔を真っ赤にする。
一方の俺は、混乱するばかりだ。
子作り?
子どもを作るって意味だよな?
いや、でも俺たちまだ恋人ですらないし……。
というか、まだ子どもの桔梗にそういう話は早いだろう。
「がっはっは! 最近の桔梗は、新入りの話ばかりしておってのう! てっきり、儂の不在を狙って他流派が搦め手を仕掛けているのかと思ったのじゃが……」
「えっと、俺は別に他流派の人間では……」
「分かっておる! 貴様の実力は本物じゃ! ここらでは見ない型で我流の色が強いようじゃが、剣術も筋がいい。他流派からの刺客ではないことぐらい、戦えば分かる!!」
「は、はぁ……」
俺は曖昧に返事をする。
そんな俺の表情を見て、師範は続ける。
「刺客じゃろうとそうでなかろうと、孫娘にちょっかいをかけてくる男は気に食わん! 儂が左手一本でボコボコにしてやろうかと思うたが……まさかこれほどの男だったとは! 嬉しい誤算じゃ! がっはっは!!」
「……」
どうやら、師範のお眼鏡には適ったらしい。
しかし、『孫娘にちょっかいをかけてくる男』とは酷い言われようである。
いや、確かに俺は桔梗のことを可愛いとは思っているが……。
年齢差がな……。
「ところで……。お主、どこで寝泊まりしておる?」
「この街の宿屋です。俺は流れの侍ですので」
「ふむ。そうか……」
師範は考え込む。
そして、ニヤリと笑った。
「よし! それでは特別に、桔梗の部屋を貸してやろう! 共に寝るがいい!!」
「ちょ、ちょっとお爺ちゃん!?」
桔梗が抗議する。
そんな桔梗に、師範はニヤニヤ笑いながら言った。
「別に良かろう? お互い、いい大人なんじゃから。お主は少し前に初潮を――ぐはっ!?」
「お爺ちゃん、うるさい!!」
桔梗の木刀が師範の腹に決まる。
彼は、腹を押さえながら崩れ落ちた。
「ぐふっ……。な、なかなか良い一撃じゃ……」
「お爺ちゃんが悪い」
桔梗は、フンと鼻を鳴らす。
そして、俺を振り返った。
「高志くん! お爺ちゃんは放っておいて、鍛錬に戻ろう!」
「……いいのか?」
「うん。お爺ちゃん、体の調子がいいときはいつもあんな感じだし……」
桔梗はため息をつく。
こうして、武神流道場での平和な(?)日々は続いていくのだった。
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