「ふぅ……。とんでもない腕力の持ち主でしたが、何とか倒せました。子ども相手と思って油断してくれたおかげですね。さて、他の皆さんは……?」
紅葉が武神流道場の中庭に視線を向ける。
するとそこには、目を丸くした桔梗がいた。
「……紅葉ちゃん? こ、この植物は……?」
「ああ、桔梗さん。見ての通り、植物妖術です」
「いや……そういうことじゃなくて……」
「?」
紅葉は首を傾げる。
そんな彼女に、桔梗は言った。
「ここ、武神流道場の中庭なんだけど……。こんなに草木が急成長しちゃうと……」
「あ……」
桔梗に指摘されて気づく。
確かに、ここは武神流道場の中庭だ。
今はタカシや紅葉を始めとする謀反衆の拠点として活用されているが、元はもちろん桔梗や師範の私有地。
その庭に、草木がこんなに大きく育っては……
「ま、いいじゃねぇか。敵対者の無力化が最優先だろ?」
「流華くん……。そちらも終わったんですね?」
流華が武神流道場の中庭に現れる。
全身に傷を負っているが、大した傷ではないようだ。
「ああ、不死身みたいな奴だったが……。金玉を攻撃して、何とか倒せたぜ」
「きん……? ちょ、ちょっと下品ですよ。殿方のお大事様を……」
「それに、哀れでもある……。南無……」
桔梗が呟く。
その視線の先には、股間を強打された状態で白目を向いた蒼天の姿があった。
少し離れたところに夜叉丸、今いる中庭には巨魁が倒れている。
これで来訪者の全てを無事に無力化できたことになる。
「ふぅ……。なにはともあれ、これで一安心ですね」
「ああ。しかし、よりによって兄貴が夜遊び中で、しかも爺さんと姉御が探しに行っているときに、こんなことになるなんてな……」
「……偶然は怖い……」
3人が呟く。
ここは謀反衆の本拠地。
本来なら、最強クラスのタカシが常駐している。
そうでなくとも、武神流師範の爺さんや桜花七侍の無月がいるのだ。
多少の襲撃なら難なく対処できただろう。
だが、今回のタイミングは最悪だった。
大人が誰もいない中の襲撃だったため、まだ子どもの3人娘だけで迎え撃たなければならなくなったのだ。
「そのことですが、本当に偶然なのでしょうか?」
「? どういうことだ、紅葉」
「いえ……。高志様の不在は、桜花七侍を始めとする桜花藩上層部の陰謀の結果では……と」
紅葉が告げる。
彼女は、3人娘の中でも最も頭が良く、また客観的に物事を見る目を持っている。
その彼女が言うのだ。
「……!! 諜報活動中の高志くんを襲撃して、捕らえた……?」
「兄貴が簡単に捕まるとは思えねぇし、捕まったとしても口を割るとは思えねぇが……。忍者どもが足跡とかの痕跡を調べてこの場所を嗅ぎつけ、オレたちを拉致しようとした……。その可能性は否定できねぇ」
3人娘の中で、緊迫感に満ちた空気が流れる。
先ほどまでは、無我夢中で襲撃者と戦っていただけだ。
仮に敗北して捕まっても、いざとなればタカシが助けてくれる。
そう思っていたからこそ、落ち着いて対処できていた。
だが、そのタカシの身に何かあったのであれば……。
3人娘が身を震わせる。
そのときだった。
「つまらない。つまらないつまらないつまらない……」
「「「――っ!?」」」
突如、3人娘の背後から声がする。
その声の主は、いつの間にかそこに立っていた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!