「うぅ……」
「少年、大丈夫か?」
俺は少年に声をかける。
少年は股間を隠すように身をよじった。
「何か……何か変だ……。俺のあそこが……」
「うん?」
俺は首をかしげる。
少年は紅葉や流華と同じく、12歳前後だ。
自分の股間の仕組みについても、ある程度は知っていると思っていたが……。
「クソ! お前のせいで、何か変だ!! この野郎!!」
少年は流華に文句を言う。
だが、鼻血が出た状態で股間を押さえながらという状態では、いまいち迫力に欠けるな。
「文句を言いたいのはこっちだ! あんな……あんなことしやがって! よくも見たな、てめぇ!!」
流華が少年に殴りかかる。
どうやら、自分のアレを見られたことにご立腹のようだ。
これぐらいの年頃の男にとってはデリケートな問題だからな。
「ぶへっ!? お、おい! 暴力は……」
「うるせぇ! 下手に出るのは終わりだ! ぶち殺す!!」
流華はマウントポジションを取り、少年を殴り続ける。
少年は鼻血を垂れ流しにしつつ、必死に言った。
「わ、悪かったって……。もうしないから……」
「ああ? しないってだけで許せるかよ!! 見たものを忘れるまで、ボコボコにしてやる!!」
「ひぃ!!」
流華は少年をいたぶり続ける。
そして――
「ぎゃああああぁっ!? 目がっ! 目がぁっ!!」
「あ、しまった……。狙いがズレて……」
流華が慌てて少年から離れる。
少年は目を押さえてのたうち回っていた。
殴る際に流華の手元が狂って、眼球に指でも突っ込まれてしまったのだろうか。
現代日本でも、小学生同士のケンカとかでありがちな光景だな。
完全にガチのケンカならばそのまま続行される。
だが、大抵の場合はこういったハプニングで手打ちになったりもする。
「おい、大丈夫か?」
俺は少年に声をかける。
少年は目を押さえながら、コクコクと頷いた。
「だ、大丈夫だけど……。目が……」
「俺に任せろ。――【キュア】」
俺は治癒の魔法で少年の目を治療する。
すると、少年の目が大きく見開かれた。
「あ、あれ? 痛くねぇ!?」
「よかったな」
「あ、ああ……。ありがとよ、兄ちゃん」
少年は戸惑いながらも、お礼を言う。
俺はさらに言葉を続けた。
「じゃあ、もう流華のことを許してくれるか?」
「……それは」
「悪いことは言わん。このあたりで手打ちにしておいた方がいい。これ以上、流華を怒らせない方がいいぞ。次は失明するかも……」
俺と少年は、流華に視線を向ける。
眼球ハプニングの直後は狼狽していた彼だが、今は怒りが再燃焼しているようだ。
少年を鋭く睨みつけている。
「ひっ!」
少年が小さく悲鳴を上げる。
またボコボコにされると思ったのだろう。
眼球アタックがトラウマになっているのかもしれないな。
「わ、分かった! 許してやるよ!!」
「ああ? 何だって?」
「許す! いや、許させてください! だから、もう寄ってくるな!!」
少年が叫ぶ。
これでは、どっちが被害者だったか分からんな。
しかし、これでようやく事態が収束したか……。
……いや、まだだ。
謝罪回りはまだ残っている。
「なぁ、少年」
「なんだよ?」
「これから、流華へのお怒り度が高めの人たちに謝りに行くんだが……」
「お怒り度が高めの人? ……ああ、商店街のおっちゃんたちか。それがどうした?」
「何かいい謝罪方法の考えはないだろうか?」
「はぁ? 知らねぇよ、そんなの……」
少年は鼻を鳴らす。
なかなか感じの悪い返事だが……。
被害者であった彼だからこそ思いつく考え、というものもあるかもしれない。
俺はもう一度、尋ねてみた。
「頼む」
「……ちっ! 仕方ねぇな……」
少年は頭をガシガシとかく。
彼はしばらく考え込み、そして一つのアイデアを出してくれたのだった。
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