「ずいぶんと強気じゃないか、景春。それ相応の覚悟があってのことなんだろうな?」
「ふん、吠えるな謀反者め。貴様が余に手出しできぬことは分かっているのだ」
景春は俺を睨みながら、そう告げる。
桔梗や早雲が動きかけるが、俺はそれを目で制した。
元藩主との問答だ。
完全に論破して、俺の正当性を強めておこう。
そして、この期に及んで自らを『余』と呼称する景春の心を完膚なきまでに砕きたい。
「手出しできない……だと? それはどういう意味だ?」
「そのままの意味だ。貴様は人の『死』を異常に忌避している……。それだけでなく、拷問なども嫌っている。そうだろう?」
「……」
「牢で目覚めたときには、余も終わりを覚悟した。しかし、貴様は余を処刑するどころか、拷問にかけることすらしなかった」
「……」
俺は沈黙を貫くが、それは事実だ。
謎の呪いにより、俺は他者を殺害できない。
それに、落城後に発覚したとある事実により、俺は景春へ拷問責めすることもできなくなった。
「実に快適だったぞ? 何もせずに食事が運ばれてきて、何の苦労もなく生活できたのだからな」
「……」
「殺されず、拷問されることもない……。そう確信できる者が相手なら、何も恐れることがある? 快適な牢の中でゆるりと作戦を練り、忠臣と結託していずれ貴様を排除すればいいだけのこと。簡単なものだ」
「……」
俺は沈黙を続ける。
景春の言っていることは全て事実だ。
しかし……。
「残念だったな。お前の理解はズレている」
「なんだと?」
景春が俺を睨む。
俺はニヤリと笑い、続けた。
「いったいいつから、俺がそれほど甘い男だと勘違いしていた? 拷問も処刑もせずに、ただ放置しておくとでも?」
「強がりはよせ。先の戦いでも、ここ最近の余への待遇を見ても、貴様の甘さは明らかだ。貴様に余を排除することはできん」
「ほう? 面白いことを言うな。ならば……」
俺はパチンと指を鳴らす。
すると、傍らから数人の黒子が歩み出た。
顔は隠しているが、その正体は闇忍だ。
黒羽や水無月もいる。
彼女たちは、移動式テーブルを景春の前まで運んでいく。
その机の上には、1つの箱が乗せられていた。
各辺が40センチぐらいの立方体の箱だ。
フタ付きの開閉式だが、今はヒモによってフタが閉じられた状態である。
「さて、景春。その箱はお前への贈り物だ。遠慮せず開けてみろ」
「……?」
「ああ、もちろん『開けたらドカンと爆発する危険物』などではないぞ? それは保証しよう」
「ふん……。この期に及んでつまらぬ駆け引きだ。物品で余を懐柔する気か? それとも、醜い虫でも見せて嫌がらせをするつもりか?」
「開けてみてのお楽しみさ」
「……いいだろう。開けてやる」
景春はテーブル上の箱に近づく。
そして、箱のフタを押さえていたヒモをほどく。
「なっ……!? こ、これは……っ!!」
景春が息を呑むのが分かった。
箱の中にあったものとは……
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